残った仕事 7組 佐藤丈夫

 

 「未だ続いているの?」とよくきかれる。知的所有権(この頃は知的財産権という方が ポピュラー)(I.P.)の仕事のことだ。

 今は間口を絞って創刊以来手掛けてきた「米国 I.P. 立法」情報だけを幸い有力誌に育った古巣出版の専門月刊紙のために執筆している。そろそろ打ち上げにしたいとおもっている。

 このこと以外の生活はすべてできるだけ水の如き?淡白さを求めているので、何とも安定しない境遇だ。

 このたびの原稿もよいテーマガ見つからないので、ふと思いつき、この年頭の仕事の「コメント」欄(勝手な所見を書いてよい)のコピーでお茶を濁させて頂くことにする。

コメント

明けましておめでとうございます

 いよいよ21世紀に入り、そして新第107議会のスタート。稀れにみる難産の挙句ブッシュ新大統領が誕生。何となく唯ならぬ気配が漂う。

 本号の対象情報は時期として当然のことながら少量だったが、ラジオ信号案件のようなデジタル問題の一論があって、案外グローバルの視野から無視できない意味合いがあるので応分のスペースを削いた。

 ところで、小誌も1987年4月の創刊以降満14年になんなんとし、本号より Vol.15が始まる。

 月並みな言い分だが、長い間のはずの十年一昔も経ってしまえば束の間のことだったような気がする。そう言えば、特に小誌の場合二つのパラダイムが論議の基本路線としてあいまって一貫して追及してきたことがそれを助長しているようにおもう。パラダイムの一つは、発刊当時既に早く「エレクトロニクス、バイオテクノロジー等の新たな技術の革新と、グローバルな経済摩擦の進展に伴い、知的所有権問題が、国際的に一躍クローズアップされて」(「発刊にあたって」)いたことに基づくことであり、従って今日までひたすらこの文脈に沿う一本道を辿ってきたことだ。この一本道は今やその下敷きに新たにデジタル革命のレールを加えて法の遅れが懸念されつつ流動的な現実を辿ることになっている。

 もう一つのパラダイムは、上記のパラダイムの達成のために不可欠の要件とする小誌の視点から本当の意味で調和のとれたグローバルな IP 制度成立を、できる限り支援することだった。この文脈からこの間に達成できたはずだったし、そうであったら今日のグローバルの IP 制度はもっと高いレベルの成長をもたらしていたにちがいない制度要件成立の重大なチャンスを何度か逸してしまったことが重大な経緯だったのだ。この文脈で特筆すべき主要事項を絞ると次ぎの二件を指摘できる;(1)米の先発明制度より先願制度への移行;(2)EC、EU の「共同体特許」制度の採択。そして、これらの逸機、特に米の場合の先行成立が順序、では日本の能動的な立ち入りが問題解決の切札的な有効手段(新幹線論に続き、最近では「日本の蛮勇編」)だったのだが、残念乍ら決定的に不十分だったことが悔まれるのだ。

 こうした三極の絶好のチャンス逸機の足取りのヒストリーについては小誌で継続的かつ包括的にかなりの回数に亘ってコメントしてきたところで、本年(Vol.14)においても、例えば、14IPR17、74、106、149、153特に156、235、315、387、468(コメント)、622などを数えることができるのだが、以下このヒストリーについてその要旨を復習して今後の展開に備えたいとおもう。


 要するに米の逸機は、大体の国内的なコンセンサスも成立し法案の原案さえできた上で、さらに条件づきながらも(日本などはその条件を満たした)国際公約をしたにもかかわらず、結局米個人・小企業を保護できないからという凡そ大局的な判断からは遠い理由で葬ってしまったのであり、もう一つの EU の共同体特許制度は、1975年の現行「欧州特許制度」(第一条約)と「共同体特許制度」(第二条約)の新制度案においてこれら二つの条約は何れも他方と別個に単独で締結されてはならないという基本的な前提条件が設けられていたにもかかわらず、欧州特許制度のみを単独採択してしまったという裏切り行為があったものだ(小誌刊行以前のことで、弊「NGB ニューズ」誌にそのヒストリーは詳しくご紹介したところだ)。いうならば、共に成立必至の動向だったのにみすみす挫折してしまったという惜しんでも余りある逸機であったのだ。


 しかしながら、こんな繰り言にこだわっているだけでは何にもならない。これらの課題は逆説的に言えば、何れもそれぞれの曰く像因の指向するところは今后いつ成立してもふしぎではないという事の論理を示していることでもある。

 それかあらぬか、ここへ来ていくつかの再びチャンスの芽らしい気配が生まれてきていることに注目したい。米の逸機の戦犯的立場だった共和党政権が今回の大統領選で再登場することになったことがその一つ。EU では関係案件進捗中なことは上記引用の通りであることがその二つ。今、国際法を越える世界法成立への歩みが始まっていることが周知の事実になりつつあることがその三つ。以上を背景にして、具体的には、以下の三つ(計六つとなる)の情報が指摘できる。WIPO が去る6月の「特許性条約」の採択(14IPR315)して11月から WIPO 内部の常設委でインターネット時代に対応した特許制度の国際的なルール作りに乗り出し、ここでは「世界特許」制度創設の可能性も議論の焦点の一つになる(日経紙8月30日)ということがその四つ。米政府が国際的に通用する「世界特許」創設を目指し WIPO に PCT の全面改正を提案し WIPO は9月25日からのジュネーブでの総会で作業部会を設置、具体的に動き出すこと(日経紙9月25日)がその五つ。WTO 関連(新ラウンドの立ち上がりその他における日・EU・途上国との反目)における米の孤立がその六つだ。これらの動向を包括的に総括すると今度こそ米の先発明主義からの離脱がいつ起こってもふしぎではないという認識が事の道理だという感覚がはっきりすることだろう。新しい時代に遅れない国際秩序を守る法の制定を確保する上で、米の先発明主義の放棄などは小さな争点であることを銘記しなければならない。日本の姿勢がかなり前向きになってきた現在「日本の蛮勇」の絶好の出番であることを指摘して期待したい。

 ところで、本号対象期間の1ケ月は時期的に当然の事ながら少なかった。このため通常時(このところ件数が多い)と様変わりして久し振りにスペースに充足ができない状態だった。

 総じて小粒で、異例の遅れとなった PTO と著作権局のファンディングを含む歳出予算法の議会通過案件を除くと、5件の PTO と著作権局の官報通達だった。当事者間特許再審査に関する終局規則、ビジネス目標に関する終局規則の訂正(共に PTO)と音響録音実演に関する終局規則と通告の計3件(共に著作権局)だった。何れも直接当事者にとってはノートすべき各論的情報だが、この中音楽配信条項に関する著作権局の三件は相俟って著作権性やナップスタ事例との関連性において一般的な関心度の高い案件でグローバルに注目される情報ということができる。