52.単身赴任始末記ー秘すれば、花
世界で一番短い手紙、というよく知れ渡った話題がある。
作家が出版社に「?」という打診をした。わが作品の売れ行きはどうか、ということだろう。
出版社は、これも「!」という返事を出した。まあまあだよ、ということか。
世界で一番短い会話もある。
日本の男は、家庭ではほとんどしゃべらない。メシ、フロ、ネル、だけである。
家人に「俺もそうかね」と聞いてみたことはないが、もう少し口をきいてもバチはあたらないのに、といわれたことはある。
概して外で働く男は、家庭では口数が少ない。得意先では立て板に水でも、帰宅してからもそうではあるまい。
我が国では夫婦もあまり話さないのが、むしろ上品にみえる。
ソバやか、寿司やでためしてみたまえ。無論、評判の味の店でなくてはいかん。
一口食す。いい味だ。
男はだいたい、こう云う。「うん!」これきりだ。女だってこんな時は「おいしいわね」としか云わない。
「秘すれば、花」という。日本の色気、本邦の上品なのだ。
およそ、昨今の女はしゃべりすぎる。
かつて、名古屋に単身赴任していたことがあり、新幹線で東京まで時折帰省していた。 この折、乗った途端見知らぬご婦人二人と臨席した。これが東京まで寸時たりとも休まず、しゃべりっぱなしであった。全てどうでもいい話題である。
家人に云わせればそんなのは常識で、たった2時間がなにさ、という感覚らしい。 しかし、2時間、二人で話しっぱなしという芸当が男に出来るだろうか。因みに酒も飲んでいないのだ。
しかし、許せる風景もある。
今は昔。通勤途中、土砂降りのなかバスに乗り合わせた。
後ろの座席に若い女二人、偶然その後ろには若者二人。
女たちは、この土砂降りを間断なく解説しっぱなしである。傘が風で巻き上がってるの、排水溝があふれてるの、アレアレあの人、靴が水に浸かってるわ。きゃあきゃあ・・・。
うしろの男二人にとっても、まれにみる景色だが、見てるものは同じである。 男が云う「見たか」、一方が返事する。「見た」。「すごいな」「うん」。これだけである。
でも思う。この若い男女はお互い好ましく思うに違いない。
むすっとした女は気味が悪いし、へらへら男は軽すぎる。
あなたは度が過ぎるのよ、と家人はいう。なにをいうか、男は度が過ぎるくらいが丁度いい。
我が家に物いわぬ若者、約一名。間断なき音波発生娘、約一名。双方独身。乞う伴侶。
ここで、思い出した。酔った亭主が、自説・薀蓄を開陳した時の家人の論評がある。
「ケッ」。これだけである。
・・・つづく・・・
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