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エッセイ:「おじさんである」シリーズ
Zクラス モリカン
60 史上最大の失敗 2007/02/28更新
59 隠居のすすめ 2007/02/28更新
58 単身赴任始末記−隠れた趣味 2007/02/01更新
57 単身赴任始末記−カギを落とした 2007/02/01更新
56 単身赴任始末記−訃報、訃報・・・ 2007/01/04更新
55 単身赴任始末記−やせる 2007/01/04更新
54 単身赴任始末記−世帯主である 2006/11/30更新
53 単身赴任始末記−食い物でつる話 2006/11/30更新
52 単身赴任始末記ー秘すれば、花 2006/11/08更新
51 単身赴任始末記ー親父狩り 2006/11/08更新

 


60.史上最大の失敗

  酒の上で、史上最大の失敗をした。(喜んでいるヤカラは、あとでガッカリするぞ)
  何が最大か。
夕方6時頃からの宴会で、自宅の布団にもぐり込めたのは、翌朝6時を廻っていた。この間一睡もせず。歩いた距離だけでも10キロは越していたはずである。なにせ、3時間以上は歩いたのだ。(徘徊した、、、が正解だが、、、)
寒風吹きすさぶ中、始発電車は遅かった。プラットホームの1時間は、孤独だったねえ、、

  心身に、今も後遺症がある。
自分は、もうダメだと思う。精神がもうクタクタになっているんじゃないかと実感する。なにゆえ、そんなバカなはめになったのか。かいつまんで、時系列に話そう。

  時は晩秋を通り越して、既に木々の葉はすっかりまばらになっている。今年もそろそろ、師走だねって頃だよ。
  心臓発作で早めに逝ってしまったヤツを偲んで、「飲もうや」という連中が集まった。
まあ、理由が理由なので欠席者もなく集まった。不幸にも、残されて早めの後家になってしまった夫人のご臨席もあった。

経験則に沿えば、こんな場合が一番アブナイ。
何故か。

  1. バカ騒ぎが出来ない。
  2. であるのに「興奮状態にある」。
  3. (これは、特殊事情だが)後家さんが若作りで、何故かやるせない感じがある。

そして、予想が的中したのだ。
2時間を過ぎた頃から記憶が途切れている。自らの危険を察知して早めに辞去したのだが、思い出すと「明かに防弾チョッキを付けた、数人のオマワリにからんでいる」自分が見える。
とまあ、ここまでは武勇伝のようなモンだ。

チト、やり過ぎたな。風にでも当たって帰ろう、と夜の街道を歩き始めたんだが、おっと、ここで「老人ボケ的」症状が出たのである。
・・・自分の位置が分からなくなった、、、、のだ。・・・(徘徊状態!)
・・待てよ。この駅はずいぶんと俺んとこの隣の駅にそっくりであるな。・・すると、これを、、こう辿っていけば、、なんだ簡単に帰り着くではないか。ふんふん、、・・それで、歩きに歩いた。
辿り着かなかった。
当たり前だ。隣の駅どころか、事実は10キロも先の駅だったのである。

  不思議なことに、危機的状態に陥ると人間は、緊張感でアタマも冴え渡るものらしい。 夜中の2時を廻っても、自宅に辿り着かないと「これは、間違えたな!」と自信を持って理解出来た。
これから先は、文頭に返って読みかえして見れば分かろう。この「夜間強行軍」の途中、娘から2度ケイタイに連絡があった。
・・「どうしたの?今何処?」・・
・・「分からんのだ。でも、心配するな。必ず帰る」(アタリマエだ)

  蛇足がある。この間、家人は高いびきだったそうである。やれやれ、、、


59.隠居のすすめ

  春から6月末までは、知る人ぞ知るオジサン人事の季節である。
年相応に、この処、定年組が頻発している。この定年というのが難物なのだ。好きこのんでの定年組に遇った事がない。誰もが、まだ何かをしたがっている。 カネが要るからである、というのが自分の解釈である。何故にカネが要る羽目になっているかは、まずは置く。
    が、マスコミの統計などを見ると、収入の確保という理由は、相当順位が低い。自己実現とか、社会への参加とか、取って付けたようなウソ八百が上位を占める。

  それで、カネの問題だ。年金受給資格の年齢になっていれば、ハッキリ欲をかくべきではない。体力、知力、意欲があっても極力働くべきでない。後進が迷惑するからである。
  薄給でもいいから籍を置いてくれないか、等は、コジキをしてでも実はカネが欲しいのだ、と云っているのに限りなく近い。我慢しろ、コノヤロウと云いたくなる。
   断っておくが、趣味も持つな等と云っている訳ではない。寧ろ、多いに持つべきである。趣味などと低レベルな目標ではなく、学術論文に取り組むとか、自己の思想に合ったボランテイアを目指すとか、高々しいものがあれば更にいい。
  その意味では、全く以前の職業と関係のない、あるいは有っても、完璧な自己責任でスタートする第二の人生なら、賞賛に値すると云っていい。
しかし、そういう御仁はごく少数派である。大多数はうじうじと晩節を汚すのだ。失礼!
だから、せめてこう云いたいのである。カネだけは欲しがるな!

  次が、名誉である。
名誉と云うと、何か論難に合いそうだから、沽券でもいい。意地なら許せるかな。 これも捨てよ、と云いたい。忘れよ、かな。超越すべきなら前向きな感じが出る。  以前、墓のことを書いた。そろそろ墓を買わなくちゃあなあ、という話である。死んだ中国の巨星、��小平の遺灰は彼方此方にバラまかれたらしい。散骨と云う。そんなことを云ったら、それは��小平だから出来るが、我々庶民には出来ないのだそうだ。
  何か、変だとは思わないだろうか。
西行、でもいい。西行は子供すら縁先にけっ飛ばして、出家し旅に出た。我々はこれも出来ない。なら、伊能忠敬はどうか。息子に家督、家業を任せ、いはば学問の徒になった。山片蟠桃も居るぞ。まあ、これも無理か。
  要するに、あれも出来ない、此も無理ということだ。それが云いたいのだろう。 そんなヤカラが、沽券がどうの、意地がどうのとチャンチャラおかしい。

  それで、結論。
偉人、資産家、余人を持って代え難い人材。結局、どれにも成れなかったが、一応、人生全うしたではないか。静かに、隠居の道を行くべし。


58.単身赴任始末記−隠れた趣味

隠れた趣味をもっているか。

  非日常的趣味について、他のシリーズで触れた事がある。謡曲である。自分の事ではない。 単身赴任者では、そんな高尚な趣味は不可能に近い。しかし、生活上の条件は悪くない。 休日がヒマだからである。例えば、絵を描く。陶芸教室に通う。鉄道模型に凝る。素人考古学チームに入る。
全て、自分には馴染まないし似合わない。(“不可能”と、家人は云う)  

  「かずこさん」と云う。 和子さんだろう、加寿子さんのような気がしない。もう一人はナントカいう紳士。(男の名前は憶えない主義)
並んで述べたが他人である。趣味が同じ、カラオケである。なあんだと思うだろう。それだけでは何の変哲もないからだ。
しかし諸君、東大の学長がカラオケ趣味だと云ったとしたら、な〜んだでは済まないよ。それと同じである。実は、自分のカラオケは隠れた趣味とは云えない。これでも一時は営業マンだったからだ。カラオケも一つの必須技術である。  
   上の二人は、少しレベルが異なる。
まず、喫茶店で唄う。(名古屋はそういう土地柄である)無論、シラフである。
極めつけ。日曜日の昼間っからやる。これを趣味と云わずして何と云おうか!  

  その喫茶点は踏切の側にあった。踏切だから電車が通れば遮断される。 日曜日、単身赴任者はけっこう忙しい。クリーニングや買い物。コンペを控えて練習もしておきたい。忙しい時に限って、遮断機は頻繁に下りる。(マーフィーの法則)
・・昼間っから演歌が聞こえる。まさか、この喫茶店か?・・「営業中」とある。
覗いた。客が二人いる。それが、馴れ初めである。
喫茶店は、主としてコーヒーを出す。「モーニング」という和製英語がある。
衣服の種類ではない。洋式、簡易朝食のことである。この条件でカラオケをやる。
名古屋の文化なのだ。    

  なかなか「隠れた趣味」の話にならない。 和子さんの職業を云おう。スーパーの食品係主任である。独身。 某日、いつも行くスーパーで食品表示にイチャモンをつけた。弁解に主任が出てきた。 「かずこさん」だった。二人とも能面で通しながら、意味不明の文句を言い合って静かに分かれた。  
  ナントカ紳士は誰か。永く、正体が知れなかった。
名古屋の交通は寡占状態にある。名鉄という。超有名な交通機関である。ナントカ紳士の姿がテレビニュースに写ったのである。ハッキリ偉い人だった。(のである)
  伊屋早、何友(いやはや、なんとも)! 仏陀髷太(ブッタマゲタ)! 

・・つづく・・


57.単身赴任始末記−カギを落とした

  単身赴任者は、ヘベレケにはなれない。ホントです。
独身者と同じではないかと思われるが違うのだ。独身者は大方、寮に住む。アパートでも管理人が居るような住宅が普通である。
説明が面倒くさい。単身赴任は保護者がいない、という事を云いたい。  

  さて、鍵のことである。単身赴任者はカギッ子である。(古い!) 事実の羅列から入ろう。単身赴任者はおおかた団地かアパートに住む。この方が面倒がないからである。
ところで単身赴任者は誰でも、たまには酔って帰る。
・・アレレ、オカチイなあ? カギが合わないよ。これは自転車のカギだし・・・
その内、気が付く。カギが違うんじゃあなくて、部屋が違うのである。
・・そうそう、俺ンチは5階だよね。ここは4階ですか! 失礼コキマシタ!
名古屋では、これを都合3度やった。一度も階下から苦情が来なかった。今もってこの謎が解けていない。 自宅(本宅)もマンションである。帰宅時、必ず表札を確認してから入る習慣が抜けない。  

  カギを落としたことがある。
いい気持ちで酔って帰って、部屋の前で気が付いた。カギがないのだ。青くなった。 カギが無ければ部屋には入れない。夜中である。いっぺんに酔いが醒めた。古い脳細胞から何から何まで全部動員して、先程迄の行動を思い出した。どこだ!なぜだ!
   あの店だ! 
コートを脱いだ。ひっくり返したから落ちたのだ。走った。看板になっていたら、万事休すである。
・・カギでしょう!・・店のママが笑っている。汗がどっと噴き出した。
・・追いかけたのよ。でも、もう姿が見えなくなっていたから、、、どう?!もう一度飲んでいく?・・
・・バカ野郎! 人の気も知らないで何を云うか。ハアハア・・(呼吸が荒い)
教訓。・・・・単身赴任者は、飲み屋に寄るなら同じ道筋を通るべし。・・・・  

  帰省から戻って、部屋のカギを開ける。
誰もいない。この時の気持ちは経験のないものには分からない。
だから、強引に朝一番の新幹線で戻るヤツもいるらしい。分かるような気がする。
ズバリ云って、それまでして家族と一緒に居たい訳ではない。  

    単身赴任当時、自分は帰省してもまだ日のあるうちに戻る事にしていたものである。帰り着き、夜中に誰もいない部屋を開けたくないのだ。
   単身赴任には工夫がいる。たかがカギ、されどカギなのだ。  

・・・つづく・・・


56.単身赴任始末記ー訃報、訃報・・・

 慶事と不祝儀は、長期サイクルがある。
コンドラチェフの波までは行かずとも、ジュグラー循環以上ではある。
若い時は、慶事が多い。云わずと知れた結婚式である。マアこっちの話はいい。
 中年オジサンを容赦なく襲う、ジュグラコンドラ(?)の不祝儀の波である。
まず、親が逝く。連れ合いの分を勘定に入れて、4人。上の兄弟がいるとこれも危ない。それと時たま、同年代も追加されることがある。
まるで、短、中、長の波が運悪く重なるようだ。人生の大不況到来である。

 自分の場合、単身赴任が重なったのである。
一応、断ろう。本文は単なるエッセイである。面白半分に書いてあるから、真剣に心配して頂かなくていい。(云うまでもないか!)
  親父が死んだ事は、前回触れた。超がつく老年が逝くのは、大往生だから宴会でもいい。言葉にならない例も、なかにはある。
 5年と少しの単身赴任期間で、親類中で自分の親を含め、9回の葬儀があった。
忘れているのもあるかも知れない。(失礼!)でも、忘れられないものもある。

 夜中に電話が鳴った。何故か、その時は家人が泊まりに来ていた。
・・えっっ、、、なんで、どうしてっ!(電話口で、家人の声が震えている)
  義兄が突然亡くなった、と電話が告げているらしい。享年○○才である。当家では3年前に岳父が逝ったばかりである。笑うに、笑えない冗句で話されたものである。
・・オジ(ニ)イサンが、亡くなったって聞こえたのよ。この間亡くなった人が、なんで、又死ななければならないのよ! だって、信じられない・・・
  いくら何でも、プライバシーは避けたい。これだけで分かって欲しい。

 若くして、逝かれるのが一番辛い。年端も行かない子供を置いて逝く者。業半ばにして倒れる者。はた又、先発つ不幸者。・・無念である!・・
 極めつけがある。
 当時、まだ娘は学生であった。親友(だったらしい)が突然死した。交通事故である。 随分と荒れた。慰めようがない。亡くなったご家族には申し訳ないが、時間が解決してくれる事を、内心祈ったものである。
 その上、次があった。
友人が飛び込んだのだ。JR中央線である。娘にとっては二度目のショックである。
今年が、○回忌になる。親としては、強くなって欲しいと願うばかりである。

 話が飛びすぎた。訃報である。
単身赴任と訃報。突如、暗闇から襲撃を受けるような訃報。一人暮らしは、アゲンストの風に著しく弱い。時にどうしても暗くなるのだ。 

・・・つづく・・・


55.単身赴任始末記ーやせる

 当時、ダイエットが流行っていた。
田舎町でもあり、スポーツクラブでもあるまいと走ることにした。町の東端を、南北に流れる川がある。
 この辺は、平野としては勾配のある方で、流れはけっこう速い。所々に堰を設け、流れを抑えている。
 町は観光の意味を考えてか、川に鯉を放している。休日に川岸を散歩すると、この鯉に餌を与えている老夫婦にしばしば出会う。和む風景である。
  春は絶景である。川の両岸が桜並木なのだ。総延長は50kmといわれるが、誇大宣伝くさい。町は延長の丁度中程にあり、鉄道の駅にも近い。絶好の桜の名所なのである。
 この土手を、ジョギングコースに利用しようとしたのである。

 人家がまばらになる北方向を目指す。50kmは話半分として25km、町が中程だから12.5km。往復だから、やっぱり25kmか! マア無理だな。
 地図を丹念に眺めながら、思案半兵衛。
これだ!。 何と鉄道が、ほぼ川と平行して走っている。戻ってくることはない。復路は電車だ。
  それでも、結局15kmコースになった。休日を利用してしばしば通った。 夏などは15kmといってもへとへとになる。
朝もろくに食事せずスタートするから、折返しの鉄道駅にたどり着く頃は、身体が宙を泳ぐようになる。耐え難い空腹感である。
 その時初めて、この地方ではオデンに味噌をつける習慣があることを知った。駅でオデンを注文した時である。
  NHKに、小さな旅という番組がある。
本来の目的ではないが、休日に生活感のある地域を離れることが出来た。いつかこの土地を離れたら、二度と訪れることはない地方の駅! オデンが旨い。
ダイエットの効果は今ひとつだが、何か変わっていく自分が感じられた。収穫である。

 飽きると自転車である。これなら往復でも疲れない。距離も伸びる。 この平野は、殊のほか神社が多い。自分は神社仏閣が好きである。小ぶりの方が好ましい。 故事来歴もいいが、要するにその佇まいに惹かれるのだ。
普段は、閑として人が寄りつかない。境内はおよそ木々が豊かである。鎮守の森の古き社には、照葉樹が似合う。
 終戦後、本邦では古い事とは悪いこと、馬鹿なこと、間違ってることと教えてきた。
加えて、この列島を経済的効果だけを狙って、土木的開発で弄くり廻してきた。行き着く先はどうなるのか。荒涼な、赤茶けた荒野が残される事だけは我慢がならない。
ダイエット計画は、とんだ副産物効果を生んだ。それでよかったと思ってる。

 ・・・つづく・・・


54.単身赴任始末記ー世帯主である。

 単身赴任者は、半端者とはいえ世帯主である。
法的な意味ではない、世間的な立場である。だから世間的義務がある。 ゴミだし、草取り、町内会である。(語呂がいい)
 ゴミ出しの話をしよう。 ゴミ出し規制は、地方自治体の権限である。カンの種類は勿論、ビンの色分け迄規制のあるところがある。更に町内会もうるさい。
しかし、一般に単身赴任者は半端者でミソッカス扱いのため、周りが助けてくれることが多い。
・・これとこれは、分けて出すのよ。大きいものは別の日ですから・・
・・すみません。じゃあ、これは分けて、と・・
・・いいから、私がやっといてあげる。早く行かないと会社に遅れるよ・・
・・??(えっ・・いいんですか?)と、驚きのあまり声が出ない・・
  日本は、実にいい国だ。アメリカではこうはいくまい。(失礼!)

 次が、町内会費がある。
集金係は必ず順番がくる。これがやっかいなのだ。第一、自分が住まいに居ないことがある。居るときは相手がいない。
  団地の一階下に、独身の部下が転勤してきたことがある。
・・おまえ、いつも居ないね。町内会費だよ、赤い羽根募金もいっしょだってさ・・
・・すみません。いくらですか?・・・
・・そうだなあ。新人だから、挨拶も兼ねて一万円かな!・・
・・い、い、いっ、一万円!!??・・
・・うそだよ。千円でよかろう・・
そんな訳だが、休日に帰省でもしてしまえば、もう集金締め切り間近になる。
・・あの家か。もう3度目だぜ。面倒くさい。自分で出そう。大したカネじゃあないし・・
誰でも、男ならきっとそう思う。
これが、実は大変な思い違いなのだ(そうだ)。
  家人いはく。
「いったい、何様のつもりなの。それが大迷惑なのよ」
「何百円だぜ。相手だって助かるし・・」
「その助けるという、つけ上がった態度がバカにしてることになるのよ」
「・・・・」(釈然としない!やれやれ!)
  その集金係まで、近所の奥さんがやってくれた事がある。美人だった。(ように見えた)出張の帰りに、饅頭を買って持って行った。小さい娘さんが付いている。2人姉妹なのだ。
・・美人の家系なんですね!・・(この時は、無理せず話せた)
うれしそうだった。子供が、ではない、奥さんが、である。

教訓。単身赴任は、男を一人前?にする。

 ・・・つづく・・・


53.単身赴任始末記−食い物でつる話

 単身赴任者は、祭日が嫌いである。
盆と正月はいい。帰省するのだ。5月の連休もおおかた帰省する。細切れたヤツが困るのだ。マア、それもいいとしよう。
クリスマスというのがある。クリスチャン国ではないから、休日ではない。それでいながら、現在でも街は華やぐ。単身赴任者だけは孤独である。あと数日で正月だ。こんな調子では気合いが入らない。

 パーテイに出た。
スポーツクラブで毎年やるヤツである。普通、オジサンは出ない。若いおじさんは、子供にケーキを買って帰る。若くないオジサンは帰る場所がない。
 家人がいれば、世情にそっぽを向いて二人で酒を飲む。単身者は所在がない。だから、パーテイに出た。・・自分で、弁解している・・。
  何か工夫しないと、もてないだろう。もてなくてもいいが、シカトされるのは悲しい。俺は乞食ではない。
 まずプレゼントである。交換するルールなのである。シクラメンを買った。高かったがポケットに手を入れ、足を貧乏ゆすりしながら値切って買った。
  次に、飲み物、弁当である。持ち込みスタイルなのだ。
ウナギの蒲焼き。卵焼き。京都の漬け物。手作りの赤飯。(自分の好物である)
酒は、大吟醸をほどよく冷やした。
  これでもてなきゃ、あきらめるしかない。目出度くうけにうけた。
・・これ、ご自分で作られたのですか?・・(若い子が、無理して敬語を使ってくる)
・・むむ、まあな・・(ウソである)
・・ワイン飲まれますか? 持って来ましょう!
・・うむ、そうね。みんな若いね!(この際、関係ない話題である)
  そして、調子に乗ってしまった。弁当はほとんど他人が喰った。マアいいか!

 以後、メンバーと仲良くなった。人は食い物に弱い。
このスポーツクラブは、割安料金だけが売り物で男は少数派である。当然オジサンは極端に少ない。土曜日の午前中など、オジサンは一人の時がある。
  そこで、エアロビクスをやる。
普通は、胡乱なヤツめと避けられる。そこで、かの弁当と酒が効果を発揮する。
・・先日は、ご馳走様でしたあ。・・・(と、若い子がニコニコ!)
・・いやいや、○△□▼☆◇(もごもご)・・・
それで、日当たりのいい、窓際の場所を空けてくれる。いやあ、近頃の若いものとは云うまじき。
・・お先に失礼しまあす!・・(面識も定かでない子が、挨拶して帰る)
・・おお!ご苦労さん。・・オジサンは機嫌がいい。 

・・・つづく・・・


52.単身赴任始末記ー秘すれば、花

  世界で一番短い手紙、というよく知れ渡った話題がある。
作家が出版社に「?」という打診をした。わが作品の売れ行きはどうか、ということだろう。
出版社は、これも「!」という返事を出した。まあまあだよ、ということか。  

  世界で一番短い会話もある。
日本の男は、家庭ではほとんどしゃべらない。メシ、フロ、ネル、だけである。 家人に「俺もそうかね」と聞いてみたことはないが、もう少し口をきいてもバチはあたらないのに、といわれたことはある。  

  概して外で働く男は、家庭では口数が少ない。得意先では立て板に水でも、帰宅してからもそうではあるまい。  

  我が国では夫婦もあまり話さないのが、むしろ上品にみえる。
ソバやか、寿司やでためしてみたまえ。無論、評判の味の店でなくてはいかん。
一口食す。いい味だ。
男はだいたい、こう云う。「うん!」これきりだ。女だってこんな時は「おいしいわね」としか云わない。
「秘すれば、花」という。日本の色気、本邦の上品なのだ。

 およそ、昨今の女はしゃべりすぎる。
かつて、名古屋に単身赴任していたことがあり、新幹線で東京まで時折帰省していた。 この折、乗った途端見知らぬご婦人二人と臨席した。これが東京まで寸時たりとも休まず、しゃべりっぱなしであった。全てどうでもいい話題である。  

  家人に云わせればそんなのは常識で、たった2時間がなにさ、という感覚らしい。 しかし、2時間、二人で話しっぱなしという芸当が男に出来るだろうか。因みに酒も飲んでいないのだ。  

  しかし、許せる風景もある。
今は昔。通勤途中、土砂降りのなかバスに乗り合わせた。
後ろの座席に若い女二人、偶然その後ろには若者二人。
女たちは、この土砂降りを間断なく解説しっぱなしである。傘が風で巻き上がってるの、排水溝があふれてるの、アレアレあの人、靴が水に浸かってるわ。きゃあきゃあ・・・。
うしろの男二人にとっても、まれにみる景色だが、見てるものは同じである。 男が云う「見たか」、一方が返事する。「見た」。「すごいな」「うん」。これだけである。  

  でも思う。この若い男女はお互い好ましく思うに違いない。
むすっとした女は気味が悪いし、へらへら男は軽すぎる。
あなたは度が過ぎるのよ、と家人はいう。なにをいうか、男は度が過ぎるくらいが丁度いい。
我が家に物いわぬ若者、約一名。間断なき音波発生娘、約一名。双方独身。乞う伴侶。  

  ここで、思い出した。酔った亭主が、自説・薀蓄を開陳した時の家人の論評がある。
「ケッ」。これだけである。

 ・・・つづく・・・


51.単身赴任始末記ー親父狩り

 かっこ悪い話をする。
親父狩りに会ったのだ。日曜日、夕日を眺めていたら紅い灯を連想して出かけ、一杯ひっかけた帰りである。
いい気持ちで、自転車を転がしながら帰った。暗がりで、呼び止める若造が二人。  

  胡乱なやつらめ、と思った途端、カネを出せときた。刃物を持ってる。
何を云いやがる。が、瞬間チョット待てとオジサンは正直怯む。刃物を持った若いのがふたり、こっちは酒が入ってる。あげく今日はサンダル履きだ。 ・・わかった。しかし、これだけしかないぞ。・・幸い、財布には7千円しかなかった。  

  憤懣やる方ない。こっちが戦闘状態になかった。虚をつかれたのだ。

  足下を固め、ジャンパーに着替え、チョットした棍棒を持って、とって返した!
当然のこと、いつまでそんなヤツがいる訳がない。
警察を呼んだ。カネが惜しかった訳ではない。しゃくにさわって仕方なかったのだ。 常習犯だったらしい。余罪もあり、その後逮捕されている。
・・手を出さなかったのは、正解ですよ。こんな事でケガしてもつまらんでしょう・・ 警察官の弁である。
・・むむ、、・・そうですかね・・(気持ちが納得していない)
・・でも、とって返したんですか。元気がありますね。ははは・・
・・(無言。――そんなに、おかしいとも思えないが)・・  

  後日談がある。こっちのほうが主題に近い。
帰省の折、事件を話した。家人、豚児どもが眼を丸くして聞き入った。
・・悪い人たちがいるのねえ。でも、逆らわなくてよかったのよ。ナイフを持ってたんでしょ。ヘタしたら、ケガだけじゃ済まなかったかもよ。
・・ これらの見解は、家人、娘である。
息子は、確固として違った。
・・家族だからかなあ。相当むかっときたね。なんちゅう野郎がいるのか。俺がいたら、ブっ殺して、、、・・
・・だめよ、そんなの。おかしな人には逆らわないのが一番。・・  

  男と女は違う。断じて違う。理屈は理論家に任せる。
この日、家族の晩餐は久々に盛り上がった。晩酌もビール、酒でも止まらなかった。 息子よ。よくぞ男に育った。
この気持ちは、いくら説明しても分かるまい。分からなくていい。
その夜は、なかなか寝付けなかった。過ぎた晩酌のせいだけとは思えない。

  いやはや、単身赴任は、いろんな事がある。

・・・つづく・・・

 
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