子供の頃、無理やりに近所のおじさんの相手をさせられたのが縁で、将棋とつきあうようになった。それが良かったのか、大学に入学した際には、すんなりと将棋部を選んだ。
当時、本人はそれほど強いとは思っていなかったのだが、そこそこの腕前だったらしい。中学生の時に将棋の本を3冊ばかり丸暗記(当時はそれくらいは簡単だった・・・今では想像を絶するが。)したことが良かったのだろう。尤も、「本に書いていない局面になると、極端に弱くなる」というのが先輩の評だったが。
将棋部のメンバーが少なく、リーグ戦に参加する7人を集めるのに囲碁部員まで借り出す、といった状況の中で、3年生のときからリーグ戦にはフル出場。その結果、卒業時には二段の免状がいただけた。会社に入ってからも、会社代表として業界の全国大会に出場したこともあるから、まあまあのところだったのだろう。
その後、他の団体に出向したり、支店に出たり、ということもあって、長い間将棋からは遠ざかっていたが、あるとき、大学の先輩である高野さん(昭和33年卒)から、「大阪如水会の将棋クラブ」への参加を勧誘された。それが縁で、プロ棋士である有吉八段の会に参加した。メンバーは40人くらい。和気あいあいの、「心から将棋を楽しむ」会で、いまも楽しく参加させていただいている。
数年前のことだが、この会を数ヶ月休んでいて、久しぶりに参加すると、高野さんが、「今日、お前に四段の免状が出るので、受け取るように。免状代は、後日振り込んでおくように」と突然言われた。通常、免状は本人が申請し、発行されるもの。「申請した覚えはありませんが」「いや、実は自分は四段の免状を頂くことになった。ただ、お前の方が自分より少し強い。そのお前が二段では困るので、ついでにお前の分も申請しておいた。それが今日授与される。」というのが高野さんの話。先輩には従う、というのが本学の伝統なので、それ以上抵抗せず、有り難く頂戴した。ン万円の出費は痛かったが・・・。
そんなわけで、実力以上の段位を持つことになったが、ある日、近隣の子供将棋教室で教えてほしい、という依頼が舞い込んだ。老後の楽しみにもなるし、引き受けようと思ったが、躊躇した。子供には正しく教えないと、将棋嫌いの子をつくってしまうことになりかねない。そこで、プロの団体である日本将棋連盟に「教え方を教えてほしい」と相談した。答えは「将棋普及指導員という制度がある。合格すれば教材も差し上げます」ということだった。
受験資格のうち欠けていたのは「日本将棋連盟の支部会員である」という条件だけだったので、平成14年に、地元奈良県の西大和支部に入会し、15年に資格試験を受けた。何十年ぶりの筆記試験と口頭試問に少々緊張したが、合格した。ただ、その後に引越ししたので、いまだに「将棋ボランティア」という所期の目的は達成していないが。
将棋を通じて、いろんな人との出会いを持てたことが、なによりの収穫である。西大和支部では、入会後、日も浅いのに幹事の一員に加わった。また、前述の高野先輩からは、俳句の会に勧誘された。おかげで、毎月の句会の締め切りに追われる羽目になったが。また、将棋普及指導員会議が大阪で開催された際に、本学将棋部の2年先輩の三宅さん(いま、関西将棋連盟の子供将棋教室で教えておられる)と40年ぶりにお目にかかり、親交が復活した。そのほか、複数の将棋の会に参加しているし、ついでに「囲碁の会」の幹事役も引き受けて、たいへん忙しいが、これも有り難いことだと思っている。
いま、将棋の普及は、憂れうべき状況にある。将来を担うべき子供の数が減っているうえに、将棋を指す子供、もっと進んで、将棋が好きな子供の数が少ないことだ。特に、ネット将棋(インターネットの画面上で見知らぬ人と指す)ができるようになった結果、「対面して」将棋を指したがらない子供が多いらしい。まあ、昔にような縁台将棋、といった風習がなくなったこともあるし、先般の将棋名人戦を巡る問題、といったことも、将棋普及に陰を投げているのかもしれないが・・・。西大和支部でも、若い人の加入がみられず、メンバーの高齢化が進んでおり、さびしい限りである。
先日、西大和支部の支部長から、「手伝うから、ぜひ子供将棋教室をやってくれ」という申し出があった。教室を開くには、子供を集めるために学校へ案内状を出したり、チラシを配ったり、といったことが必要になるし、場所も確保しなければならない。また、ルールさえ知らない子から、相当強い子まで、いろんなレベルの子供を同時に教えるには、一人では大変だ。それを手伝っていただけるということは、本当に有り難いことで、本気になって考えているところである。ただ、一度始めてしまうと、自分の都合で休む、といったわけにはいかなくなる。生来怠け者なので、そのあたりが一番心配で、熟慮しているところ。ただ、ここまで将棋に関わってきたのだから、近い将来には「教え方」を改めて勉強して、この課題に取り組みたいと考えているところである。 |