三島ゼミ最終見解

 

 注) ◎:起訴時に示されていた事実

    ○:新たに裁判所が抱いた心証など

 

小問()

   ◎殺人で起訴

   ○殺人の故意か傷害致死の故意か不明。

 

 殺人の故意について検察官の証明、および裁判官の十分な心証を得られなかった。よって殺人の認定はできない。

 その場合、傷害致死の認定をするためには訴因変更(一般的には訴因の予備的請求)が必要である。何故なら結果的加重犯はその基本犯より重い処罰がなされる以上、結果に対する責任を当然に要する。すなわち結果について過失という主観的な責任要素が必要と考える。従って傷害致死には死の結果に対する過失が必要となり、傷害致死の訴因の予備的請求には過失のある旨の記載が必要となる。

 傷害致死罪の成立には過失を必要とするので、傷害の故意の証明のみならず、致死に対する過失の証明を行わなければならず、故意の証明だけが必要な殺人罪とは被疑者の防禦の観点から異にする。

 当然、殺人と傷害致死は包摂・被包摂の関係に立たないこととなり、訴因変更(予備的請求)の無い場合には、裁判官の訴因変更命令の義務の問題となり、基本的には裁判官にはその義務は無いと考えるので、検察官より訴因変更の請求が無い場合には、傷害致死の訴因である過失の証明が無いので傷害罪となる。

 予備的請求か訴因変更がなされ傷害致死の過失の証明がなされた場合に、傷害致死が成立する。

 

 

小問(2)

   ◎住居侵入罪(刑130)と殺人罪(刑199)で起訴。

   ○@Xに殺意がないこと

 A殴打と足蹴りは同一時になされたのではなく、二つの行為の間に3時間の隔たりがあること、それによりどちらの行為が、Aの死の直接的原因になったのかが不明確

 

 検察官の訴追意思について

検察官は、可能性のある限り、重い罰条で訴追するのが普通である。

よって、検察官の訴追意思を考えた場合。

傷害と傷害致死の併合罪として訴追、予備的訴因として、殴打、足蹴りを一連の行為とみなした、包括一罪としての傷害致死罪を訴追する。

*上記、訴因では、併合罪を本来的に主張しいているが、我々の見解では、二つの行為に 3時間の隔たりがある本件の場合、併合罪としての可能性はあるものの、これを包括一罪と捉えるのが妥当だと思われる。

※小問(2)では、本件のような二つの行為をどう捉えるか、つまり罪数的な問題が大きな論点になると考えられる。後記に、罪数の決定基準の学説、本件で特に問題となる包括一罪の要件を挙げつつ、それぞれについて我々がとる見解を述べる。

 罪数

小問()

 実行したのがXのみであることは疑いないが、Yと共謀の上である可能性が浮上し、最終的に裁判所は、Xの単独犯かYとの共同正犯であるかいずれかであるとの心証を形成したが、いずれであるかを特定できない場合。

 

◎住居侵入罪(130)および殺人罪(199)の『単独犯』で起訴

○Yとの共謀の可能性が浮上し、裁判所は「Xの単独犯かYとの共同正犯(60)であるかいずれかであるとの心証を形成したがどちらかは特定できなかった。

 

☆共謀の事実について

・訴因の変更

 一般的に訴因の機能は、当事者の攻撃防禦の争点を明確にし、被告人の防御権を全うさせることにあるので、具体的事実に相違が生じた場合、訴因変更は必要である。この訴因の機能に加えて、当ゼミでは訴因は審判の対象であると捉え、裁判で争う為には、その事実が訴因にあがっている必要があるという立場をとる。

 本件においては、XとYとの共謀という事実は、Xの単独犯という訴因事実の中に包含されない。しかも、訴因にはなかったXとYとの共謀という点だけで、Aは共同正犯であると認定されるのであるから、訴因変更をしなければ被告人に対する不意打となり、被告人の防禦権の行使に不利益となる虞がある。よって訴因変更は必要であると考える(事実記載説)

 その共謀事実の記載の程度については、日時・場所・当事者等をできる限り明確にすべきであるが、本小問では次の小問()とは異なり、実行犯がXであることは確実であるので、共謀の行為の有無によってXが実行した基本的犯罪事実に変動が生じることはないと考えられる。よって、共謀事実の記載はできる限り詳しく記載すれば、被告人の防禦権は保障されると考える。

 

☆小問()に対する解答

 裁判所が「単独犯」と「共同正犯」のいずれかであるとの心証を形成するには、被告人か検察側のどちらか一方が「単独犯」の主張し、他方が「共同正犯」を主張していると考えられる。

 事実記載説の立場をとる本ゼミとしては、「単独犯」と「共同正犯」では、共謀の事実が罪となるべき具体的事実に相当し、共同正犯の成立には、少なくとも共謀した事実が必要であるので、共謀の事実を択一的訴因として追加(刑訴312)することが必要となってくる。

 また単独犯と共同正犯では共謀の有無を違いはあれ、それ以外の事実において公訴事実の同一性が認められるので、訴因の変更は可能である。

 これにより、裁判所は「共同正犯」につき審理できるようになる。

 ここで、場合分けをしてみる。

@ 被告人:単独犯主張    検察側:共同正犯主張

A 被告人:共同正犯主張   検察側:単独犯主張

 @の場合、検察側が単独犯よりも犯情も量刑も軽い共同正犯をとれば被告人は単独犯を主張するメリットはなくなるので争う余地がなくなる。よって、この場合の検察側は、犯情や量刑が単独犯よりも重い共同正犯を主張する。ここで検察側が主張する共謀を明確に立証して裁判所の心証を得ない限り「疑わしきは被告人の利益に」の原則に照らし、被告人は単独犯であるとの認定ができる(38@)

 逆にAの場合、検察側が単独犯をとった場合、被告人は共同正犯を主張することになる。検察側の主張する単独犯の犯情や量刑が被告人の主張する共同正犯よりも軽い場合は、被告人は自ら共同正犯を主張するとは考えにくい。よって@の場合と同様に考えると、検察側が共謀の事実のないことを明確に証明しない限り、犯情・量刑の軽い共同正犯が認定されるといえる。

 最後に考えられるのは、@Aどちらにおいても単独犯と共同正犯の犯情、量刑が全く同じであるときである。この場合には、被告人の利益に鑑みても争う必要がなくなるため、どちらと判断するかは特定しがたい。この場合、裁判所は明確に犯情・量刑が同じであると判断される場合など特別な場合においてのみ、「単独犯または共同正犯」という択一的認定ができると考えるのが妥当であるとも考えられる。

 しかし、一般的に異なる構成要件に該当する事実相互間で刑または犯罪に軽重がないという場合は考え難い。

 

<参考>

犯罪ごとの場合分け

│犯罪の種類 │Xの犯情、量刑の重さの順位

1│ X単独犯 │ B(中:基本に置く)

2│ XR+Yの共同正犯│ A(重:Xが首謀の場合)

3│ X+YRの共同正犯│ C(軽:Xがやらされた)

4│ X+Yの共同正犯 │ B’(中:犯情、量刑変わらず)

 

判断の場合分け

│ 被告人 │ 検察側 │  裁判所

@│ (単独) (首謀)│ 2で共謀の立証なければ、単独犯

A│ (サブ) (単独) 1で単独の立証なければ、共同正犯

B│ 1or │ 4or 検察側の主張に対する立証が要する。

 

 

小問()

◎Xの住居侵入及び殺人の罪(130199)で単独犯として起訴

○共謀は確実だが実行行為者が不明。

 

 Yとの共謀が確かであることより共謀共同正犯(60)が成立するかどうかであるが、この場合、共謀の立証には具体的証明が必要であるが、本問ではその証明すべき証拠が文面上明らかではないので、はっきりとした判断はできない。よって、共謀の対応が正犯の責任を負う程度具体的に立証されたとして以下検討していくことにする。

 検察は共謀共同正犯を主張するのが通常であり、単独犯から共謀共同正犯への訴因変更(刑訴312)の要否の問題となる。単独犯と共謀共同正犯とでは両者の事実に食い違いが生じ、「共謀」の事実について認定する必要があり、被告人の防御方法にも変化が生じる。よって訴因変更が必要である。その際裁判官は検察官に対し訴因を補正する旨の釈明をする義務があるにとどまる。なお訴因変更の際には共謀の事実について具体的に日時、場所、内容等を記載する必要があり、その記載のなされない訴因変更は違法であり認められない。

 

■共謀共同正犯へ訴因変更された場合。

 この際、検察官は単に「共謀の上」と記載するだけでは足らず、共謀のみに関与した被告人にとっては共謀の成立が犯罪の唯一の接点であり、共謀の成立について防御をつくすことになるので、当然検察官は「共謀」の日時、場所、内容等を記載、立証する必要がある。

 裁判所が判断を下す場合、当然「共謀の上」と記載するだけでは特定が不十分であり認められない。

 実行行為者が正体不明の場合、共謀のみの被告人は誰とどんな共謀をしたかは普通はわかり得ない。しかし本小問ではXかYかのどちらかが実行したかは明らかであるところまでの立証がなされていると考えられるので、その認定が問題となる。

 この際、実行行為者が「XかY、若しくは2人により」といった明示的概括認定が許されるかどうかが問題となる。この点、有罪判決における罪となるべき事実(3351)は、通常、日時、場所、方法等を明らかにして特定される(2563項参照)。これらが同一構成要件内の場合は明示的概括認定をすることは明確性の点で優れている場合がありうる。しかし少なくとも量刑判断に影響を及ぼすような犯情の違いがある場合にはやはり「疑わしきは被告人の利益に」の原則に照らして問題がないとはいえず、また量刑上重い事実をも考慮したのではないかとの疑いを懐かせる点で妥当でない。

 よって、概括的心証にとどまる場合は犯情の重い方を認定することはできず、犯情の軽い方をして認定(黙示的概括認定)するべきである。

 本小問の場合、審理においてXが主張する自らの犯情の軽い方を考慮して認定すべきである。すなわち、Xが実行行為をした旨主張した場合、Xが実行行為をしていないと主張した場合、Xは何もしていないと主張した場合が考えられ、前二者の場合はまさしく「疑わしきは被告人の利益」の原則を採用しXの主張通り認定し、後者の場合実行行為が犯情に関係ない場合のみ明示的概括認定を特別に許すことができると考える。

 

■単独犯のまま訴因変更がなされなかった場合。

 この場合、共謀共同正犯は当然認められないが、幇助について認定することは可能か問題になるが、不可である。幇助についても幇助行為をについて訴因を明確にし立証すべきで、被告人にとっても幇助の成立について防御の必要があるからである。

 

■最後に、考えにくいが検察官が単独犯の外に幇助犯としても予備的に請求した場合、これは共謀共同正犯の成立自体を否定する説の場合、幇助が成立する可能性があり、その際の認定をどうべきかという議論と非常に似ているの論じてみます。

 この場合も上記と同じく犯情により判断すべきであるが、Xは実行行為者になり得ない。すなわちこの場合はYの実行行為がXの犯情によい影響を与える場合、それを認定することができるかが問題となる。「疑わしきは被告人の利益に」の理論をそのまま使うとYの実行行為は認めても差し支えないであろう。しかし、この認定は被告人Yの審理が本件と別に行われている場合、Yにとって何らかの不利益となる可能性があり、反面、Yの実行行為を認めないとなると実行行為者がいないことになる。よってYが実行行為者であるということは情状理由の一つとして被告人に挙証責任があるものであるとし、その証明が無い場合には「XもしくはYの実行により」という明示的概括認定を認め、Xは従犯として必要的減刑(63)を受けるのが妥当である。

 

 

小問(5)

 

併合罪(刑45条)刑の加重(刑47条)

余罪の処理(刑50条)科刑上一罪(刑54条)

二重危険の禁止(憲39条)

 

◎住居侵入罪(刑130条)とAに対する殺人罪(刑199条)

○上記裁判について有罪が確定したのち、たまたまA宅を訪れていたBが殺害されていたことが判明し、改めてB殺人について起訴。

 

・ 罪数関係について 

 「かすがい作用」は数個の殺人罪がそれぞれ一個の住居侵入罪と牽連関係にあるとき、全体としても牽連犯として科刑上一罪とするものである。ただし、各殺人罪と一個の住居侵入罪との間に牽連関係が認められるには、手段・目的ないし原因・結果の関係にあるような密接なものでなければならない。

 ところで、一個の住居侵入が仲介となって、もともと併合関係にあった数罪をまとめて一罪とするのは一見、併合関係を全く無視しているかのようで不合理であるように思うが、併合関係にある数罪でも、住居侵入を介することで社会観察上、ひとつの事象と捉えられうるので全体を一括して取り扱う「かすがい作用」は合理的であると言える。例えば、一家皆殺し目的のために住居侵入して一家を殺害した場合などは、一罪として扱うことには不合理でないだろう。(ただし、住居侵入時の犯意によって牽連関係を切ったり切らなかったりすることになり、罪数の判断基準が非常に不明確になる。この点は未だ検討中である。)

 

 本問事例において、A実行のための手段として住居侵入をしたのであるから、A殺人と住居侵入との間には密接な牽連関係が認めらる。また、ZとB間にも牽連関係が認められるが、たまたまA宅に訪れていたBを殺害したのであるから、住居侵入時点の目的にはB殺害は含まれていなかったと言える。よって、BZ間にはAZ間に見られるような密接な牽連関係ではなく形式的な牽連関係であると考える。さらに、AとBは併合関係にあることを考慮すると「かすがい作用」が出る余地はなく、AZの牽連一罪とBの併合罪であるとする。

 

・ 一事不再理の客観的範囲について

 事実上同時審判ができた場合に一事不再理効が及ぶと考える。つまり、公訴事実の同一性と一事不再理の客観的範囲は連動しないと解するので@被告人に帰すべき事由で法律上、事実上同時審判が不可能であった場合はたとえ、公訴事実の同一性の範囲にあるときでも、一事不再理の効力は及ばず、A逆に併合罪の関係にある二罪であっても社会的に見て一つの違法事実であると認められる場合には、一事不再理効は及ぶと考える。

 例えば、住居侵入罪と強姦罪などの親告罪との牽連一罪の場合、親告罪の部分に告訴がないとき、親告罪の部分を同時に訴追することは不可能であり、責任を問い得ず、一罪というよりもむしろ、併合罪として扱うべきではないだろうか。また、文書偽造罪と同行使罪との牽連一罪の場合、各罪の間には場所的にも時間的にも間隔があったとき、一罪でありながら同時に責任訴追するのは難しい。さらに、一事不再理が及ぶ範囲を公訴事実の同一性に求めるとする根拠として、審判の対象である訴因の変更が可能である範囲、すなわち、公訴事実が同一である範囲において被告人は審判の可能性があったと言う「危険」にさらされているから一事不再理効は及ばないとするならば、親告罪の場合はどうなるのか疑問である。

 そうすると、ただちに公訴事実が同一性の範囲内であるからと言って一事不再理効が及ばないとするのは妥当でない。

 

 本問事例において、前訴と後訴の併合罪であると考えるので、まず、Bについて社会的に見て一つの違法事実で、同時捜査・同時立証が可能であったかどうかを考る。可能であったならば、Bについて一事不再理効は及び、起訴は許されず裁判所は免訴判決をだすべきである。また不可能であったならば、一事不再理効は及ばず、起訴は認められ、実体審理がなされるべきでる。

 

                                                 以 上 

((追加参考文献))

田宮 裕「二重の危険」法学教室No.99 24貢(1988)

筑間 正泰「一事不再理効の客観的範囲に関する諸問題―罪数を中心として―」政経論叢 第26巻       第五号 235貢(1977)

沢登 佳人「訴因と公訴事実とは同じ物である、公訴事実同一の範囲と一事不再理の効力の及ぶ範囲とは異なる」法政論集 第70号 136貢(1977)