【裁判傍聴記】
弁護士法違反被告事件
10月31日 東京地方裁判所刑事部 第406号法廷
12.11/2
文責 N.H
1 事件について
(1) 当 事 者
● 被告人→2名
・ A:元弁護士(70歳)
・ B:元A法律会計事務所事務長(50歳代)
▲ 弁護人→2名(男性)
■ 検察官→1名(女性)
▼ 裁判官→1名(男性)
(2) 事件の概要
※検察官の起訴状朗読・冒頭陳述を聞いていないため、証拠調べを聞いて分かった部分と、後日調査により判明した事項にとどめる。結構有名な事件で、マスコミでも取り上げられた模様。
Aは、1997年1月から98年8月にかけて、いわゆる整理屋である信用調査会社Cの元社長Dらから紹介された多重債務者23人、債務総額4900万円について、消費者金融会社などと和解交渉をして、計約1000万円を得た。このことが、弁護士法違反(非弁護士との提携)の容疑に問われた。(以上、日経新聞より)Bは、弁護士ではないが、刑法65条1項の適用により、共同正犯として訴追された模様。AおよびBは、7月19日に、警視庁保安課と神田署により、逮捕され、8月19日に保釈されている。AもBも、訴因記載の事実について、有罪を認めている。
なお、Aは、このような整理屋に自己の法律事務所を提供し、名義を使用させたことにつき、平成12年3月17日付で第二東京弁護士会から退会命令の処分をうけている。なお、懲戒理由が今回の事件と同一か否かは不明。
<参考> 弁護士法
第27条 (非弁護士との提携の禁止)
弁護士は、第72条乃至第74条の規定に違反する者から事件の周旋を受け、又はこれらの者に自己の名義を利用させてはならない。
第72条 (非弁護士の法律事務の取扱等の禁止)
弁護士でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。但し、この法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
第77条 (非弁護士の法律事務取扱等の罪)
第27条、第28条、第72条又は第73条の規定に違反した者は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
2 当日の公判の流れ
※地裁1階にて事件録を閲覧し、興味深かったので、この事件を選んだ。入室は10時30分ころ。開廷は10時だったので、30分遅れで傍聴を始めたことになる。おそらく被告人Aのための証人尋問から当期日は始まったのだろう、傍聴席に被告人Aの妻らしき人がいた。
(1) 被告人Aに対する質問
● 弁護人から被告人Aへの質問
・ なぜ整理屋との関係を切ることができなかったのか。
Aは、DがC会社の運転資金として融資をうける際に、名義を貸し、家屋を抵当に入れるなどの世話をした。(つまりは、Aが金員を借り入れ、Dに渡したということ)これは、Aによれば、Dとの信頼関係を維持するためとのこと。弁護人の、「それは常識的に考えて、あまりに負担を負いすぎでは」との質問に対しては、「これが私達の信頼関係の保ち方、分かってもらえなくても仕方がない。」と開き直る。
※運転資金名目で借り入れた金員の使途は、実際は不明で、Dの紹介でA事務所の事務員をしていたDの手下Eが使い込んでしまった模様。
上記のような経緯があるため、もはや後戻りができず、「船が港を出てしまったという開き直り」があったため、関係を切ることができなかった。
・ 検面調書・員面調書について
逮捕・勾留されていたため、精神・健康状態が異常だった。取調べの際に追及された時、めんどくさいから「おっしゃるとおりです」と言ってしまった。
※供述の信用性・任意性に疑問を投げかけるためか?
・ (Aに対して)なぜ今回のような事件を起こしてしまったのか。
「今回のことは、最低である。当初、整理屋との契約書?(←筆者推測)に盲判をついてしまったことが災いの始まりだった。また、自分が、乗せられ安く、情にもろく、頼まれると断れない性格であることも影響した。」
Aには、抑うつ症の病歴がある。
今後は、趣味(俳句)の道に行きたい。今回の件は、反省している。
▲ 検察官による反対質問
・AがDに対し支払っていた金員について、どのように認識していたか。
この点につき、被告人Aは、調査委託費の認識だったと主張。これに対し、検察官は捜査段階での供述をひきながら、「紹介料」と思っていたはずだと追及した。Aは、それは国税局の査察官や、検察官に強制されたのだと主張した。検察官はAが関連性のないことを供述しようとすると即座に遮り、また、被告人も、検察官の厳しい追及に対し、激しい口調で応戦するなど、緊迫したやりとりが続いた。
また、いつから違法提携であると認識したか、すなわち、いつから違法性の意識が生じたか、という点についても、検察官との間で激しい応酬があった。弁護人は、当初は違法性の意識がなく、被告人は整理屋との顧問契約に盲判をついたのだ。と主張したものと思われる。
(2) 証人尋問:被告人Bの妻
Bが宣誓書を朗読、尋問が開始された。被告人Bの情状を立証するための証人のようだ。Bが肝炎にかかっており、健康状態に不安があること、B夫妻の子供が根治の難しい腸閉塞で入退院を繰り返しており、手術に多大な費用がかかるなど経済的に困窮した状態にあったこと、そのために多方面より借財をなしたが、それはもう返済を終わっていること。Bは手当のつかない残業をしてまで一生懸命まじめに仕事をしてきたこと、などを証言した。
被告人Bが営利目的で本件犯行に寄与したものではなく、Aの事務所の事務長ということから、やむなく加担するに至ったのだ、ということを、立証しようとしたのではないか(筆者推測)。
(3) 被告人Bに対する質問
被告人は、多重債務の処理をある程度任され、多重債務者の相談にも、非常に親身に応じ、適切に処理していた。また、捜査に対する態度も非常に協力的で、任意で聴取にも応じていた。(のに、身柄を取られてしまった。)
今後は、もう2度とこの席(被告人席)にはつきたくない。
(4) 検察官による論告
※非常に早口で、まるで呪文のようであり、聞き取るのに難儀した。
・被告人らの行為は大きな社会問題となるなど、刑事責任は重大で、情状酌量の余地はない。
・被告人Aは、弁護士会から過去に4回もの処分を受け、退会処分は受けて弁護士としての活動はできないものの、資格なくして今回のような事件をまた引き起こす可能性は十分あり、再犯のおそれがある。
・Bも同様再犯のおそれがある。
・求刑;被告人Aに対し、懲役2年。被告人Bに対し、懲役10月。
(5) 弁護人による最終弁論
● 被告人Aの弁護人から
・ 被告人には違法性の認識が当初はなかった。
・ Aの事務所の経済状況が厳しく、このような依頼を受けてしまった。
・ Aの抑うつ症も、情状のひとつである。
・ Aは70歳と高齢であるから、執行猶予付きの寛大な判決を求める。
▲ 被告人Bの弁護人から
・ Bは、A事務所での事務長としての立場や、また、家庭の経済的な事情など、犯行に至った経緯に同情すべき点が多い。
・ 事務長として誠実に職務をこなし、また、多重債務者と金融業者との和解交渉においても、極めて有能で、親身であった。
・ Bの行った行為は、実質的違法性に乏しい。
・ 以上より、執行猶予付きの寛大な判決を求める。
(6) 被告人による最終陳述
● 被告人A
・判決の行く末は神頼みであり、現在は、「まな板の鯉」の心境で、裁判長に全てを委ねたい。寛大なる判決を賜りたい。(上申書らしき書面を朗読)
▲ 被告人B
・もう2度と被告人席に立たないようにする。
3 全体を通じた感想
・裁判官の机の上には証拠書類が山積みされ、裁判官が書面に読みふける様子が見られた。なお、弁護側は検察官提出の書証に対して全て同意したようだ。
・検察官の論告の朗読があまりに早口で閉口した。あれでは口頭主義といえるのか、疑問である。現に弁護人も、検察官から事前に受け取ったであろう論告要旨の書面を食い入るように見ていた。裁判官も同様。早口言葉のように読む検察官の周りの人間が、皆書面を目で追っている様は、ある意味滑稽であった。
・被告人Aに対する裁判官の態度が冷たかった。最後の被告人陳述の際に、Bの言い分を引き出そうと、柔らかい物腰であったのとは対照的であった。検察官も同様。やはり、Aが過去4回も懲戒を受けた弁護士であるという事実が態度に影響していたのだろうか。