実施日 ; 1999年6月29日(火)
法廷名 ; 東京地方裁判所八王子支部 刑事1部 第205号法廷
事件記録(午後の事件のみ)
第一事件(第一回公判)
罪名;覚せい剤取締法違反(身柄拘束)
事件概要;自宅において暴力団から入手した覚せい剤5.65g所持、自己使用。
被告人;X(男性・50歳代前半)
弁護人;男性・40歳代
特記事項;傍聴席は後藤先生・学生18名(後藤ゼミ)、被告人内縁の妻、被告人の弟
手続の流れ;
13:14 被告人入廷(警備2名)
13:15 開廷・起立・礼
人定質問…被告人の氏名・生年月日・本籍・住居・職業
被「住居?」 裁「あなたの住所のことです」
13:16 起訴状朗読(ゆっくりと明瞭に読む)
1) 被告人方で覚せい剤を所持
2) 逮捕後さらに自宅に覚せい剤あることを自白したので追起訴
3) 注射器による覚せい剤使用
13:17 黙秘権告知
罪状認否…被「間違えありません」→着席 弁「被告人の言う通り」
13:18 冒頭陳述(早口だが明瞭)
トラック運転手やるも体調崩し、鳩の飼育・販売に転職。その際に鳩レースのために鳩を購入する暴力団員と交際、覚せい剤を入手し、使用するに至る。
13:20 検察側証拠調請求→弁護人書証含めてすべて同意
13:21 証拠要旨告知
13:27 検察官証拠呈示
覚せい剤入りのビニール小袋6つ。高々と掲げ、傍聴人にも見える。6袋それぞれに文字の書かれたシール貼ってあった。
13:28 弁護人証人(被告人内縁の妻)申請 検察官「然るべく」→傍聴人席から証言台へ
証人氏名確認・宣誓書朗読・弁護人証人尋問(証人着席)
1) 不景気でトラック運転の仕事減、さらに昨年11月、被告人の父親死去
2) 趣味だった鳩飼育を仕事にして販売。今は鳩が250羽、飼育方法が妻にはわからず、被告人逮捕後に数羽死亡。被告人は糖尿病で、重労働できない。
3) 来月15日には亡き父の初盆。親族には「病気療養中」と知らせてある。
4) 暴力団は鳩レースの関係で付き合い。今後は転居して関係断つ。被告人とも入籍予定あり。被告人を支えて行きたい。
13:40 裁判官証人尋問
1) 現在の収入・借金額は?…わからない。覚せい剤高価なのにどこに収入?…沈黙
2) どうやって被告人に注意払う?…交遊など行動をチェック
3) 持ち物チェックは?…やります
13:43 弁護人被告人質問
1) 父の死はショックだった
2) 追起訴の覚せい剤は自分から出した、もう覚せい剤やめようと思って。
3) 暴力団との付き合いは深くない、切ろうと思えば切れる。
4) 鳩飼育収入は月平均50万円
13:50 検察官反対尋問
1) 覚せい剤を6袋に分けて持っていたのは売却目的ではないか?―違う
2) 注射本数が覚せい剤所持量に比べ少なすぎるのでは?―そんなに覚せい剤やらなかった。
3) 鳩は高く売れないのでは?―1羽五万円だ。
13:55 裁判官被告人質問
1)
小袋にほぼ均等に覚せい剤入っているが?―目分量でやった。鳩の餌やりで慣れたかも。
2)
覚せい剤売人の公判になったら証人になれるか?―はい
3)
外に出ても「もう一度くらい」とならないか?―ならない
14:01 論告
被告人覚せい剤所持の営利目的の可能性、近時の覚せい剤犯罪の増加、所持量の多さ
→懲役2年6月求刑
14:03 弁論
被告人家族の生計は被告人飼育の鳩にかかっている。
反省し、前科前歴も遥か昔の暴行のみ。覚せい剤については初犯。
暴力団との関係を断つといっている。執行猶予を。
14:07 被告人最終陳述
覚せい剤はもうやらない、寛大なご処置を。
14:09 ―――休廷(14:25に判決を言渡すため)―――
14:25 開廷・起立
判決言渡 主文 懲役2年6月・執行猶予4年、覚せい剤没収(以上はゆっくり明瞭)
理由 非常に早口で不明(検察・弁護人の論告・弁論にほぼ同じ内容)
訓戒…「ざっくばらんに話しますと」通常覚せい剤初犯は懲役1年6月なので本判決の量刑は重い。交遊関係が気になるので重くした。執行猶予をつけたのは、前科前歴がないことと今後の捜査・公判への協力を約束したことを考慮した。今日判決をすぐに出したのは、あなたのことを軽く扱ったのではなく、弁護人選任の件で公判開始が遅れ、未決拘禁が2ヶ月半に及んでいるから(明瞭、わかりやすく話す)。
*他、執行猶予の説明、控訴の説明
14:31 閉廷
第二事件(第七回公判)
省略
第三事件(第六回公判)
省略
【裁判官質疑応答】
Q;黙秘権告知を第三事件では6回目公判にも関わらずやっていたが、そういうことはしばしばあるか?
A;何回もやることあり。被告人が忘れていることもあるから。殊に外国人事件では繰り返し告知。
Q;外国人事件で特に意識することはあるか?
A;通訳の正確性が気になることも。どのように正確性を担保するのかが問題。八王子支部は米軍基地が近いので、通訳事件も多い。テープ録音を公判ではしているため、控訴審で通訳の問題になっても対応できるが、捜査段階ではテープ録音していないため、通訳状況の正確性担保が課題だろう。
Q;もし裁判官が通訳の誤りに気づいたとしても、通訳の日本語に従って審理するのか?
A;そういうことになるだろう。もっとも、今回の事件(第三事件)では、被告人が有罪判決を受けると国外退去の可能性ある。日本人の妻を持ち、息子もいるため必死だろう。おそらく最高裁まで争うことになるだろうから、丁寧に審理するようにしている。
Q;第三事件被告人は大工を呼んでくれと言っていたが。
A;あの発言は私も気になる。でも、弁護人は呼ぶ必要が無いと判断したのだろう。もっともあの弁護人は少々頼りないが…(笑)。
Q;裁判官の被告人質問が多いように感じたが、いつもこんなに多いのか?
A;被告人に判決を納得してもらうために、そして裁判官も事件についてよく考えていることを示すために質問している面もある。第三事件では書証の真実性をチェックするために綿密に質問した。弁護人が頼りない。外国人事件なので仕方ない面もあるが。国選弁護人であり、こちら(裁判所)が選任しているため、弁護人をフォローする形で質問している面もあり。
Q;傍聴人が今日はこのように大勢いるが、そのことは意識したか?
A;非常に意識した(笑)。手続がわかるように、検察官にもお願いしていつもよりわかりやすく聞けるように運用した。判決後の訓戒もいつもよりは丁寧だったかもしれない。第一事件で1日で判決を出したのも、皆さんが来ているからやったという面がある。普通、判決は被告人の反省の意味を込めて1週間後のことが多い。もっとも、第一事件は弁護人選任が遅れ、公判開始が遅れたため勾留期間が2ヶ月半に及び、長かったせいもある。
Q;第一事件で執行猶予を付す理由として、覚せい剤売人の今後の「捜査への協力」「公判での証言」を挙げていたが、捜査協力と取引的に付した面はあるのか?
A;それはない。被告人が暴力団との交際を絶つと宣言したことを、念押しするために言った。被告人は今後、暴力団に命を狙われるかも知れない。そのための覚悟を確認した。
Q;人によっては、「公開」とは事案内容を傍聴人には示さなくてもよいと理解し、起訴状を意図的に早口で読んだりしているようだが、そのことについてどう思うか?
A;それでは「公開」裁判の意味がないのではないかと思う。傍聴人にも内容がわかるようにするほうが妥当だろう。ただ、その人の個性にもよるだろう。私も時間が押している時には早口で話してしまうこともある(苦笑)。