『東電OL殺人事件』
・・・佐野眞一著、新潮社、1800円
「東電OL殺人事件」が起きたとき、世間は「発情」といってもいいほどの過剰な
反応をしめした。昼は美人エリートOL、夜は売春婦。マスコミは彼女が殺人事件の被害者であること
をそっちのけに、昼と夜の二つの顔の落差に照準をあてたストーリーづくりに狂奔していった。(本書
プロローグより)
本書での著者の狙いは、”被害者のプライバシーを暴くことではなく、この事件の真相にできるだけ
近づくことによって、亡き彼女の無念を晴らし、その魂を鎮めることができれば”であると言う。
そして、まず、彼女はなぜ堕落の道を選んぶことになったのか、事件の現場 渋谷・円山町、円山町
のラブホテル街と地下茎でつながる岐阜・御母衣ダム、彼女の父親の故郷である山梨県等を訪ね歩く。
事件発覚から2ヵ月後、殺害現場の隣<のビルに住む当時30歳のネパール人が逮捕された。逮捕の
決め手は、殺害のあったとされる日の深夜、そのネパール人と被害者が一緒にアパートに入るところを
見たという目撃証言があり、室内に残っていたコンドーム内の精液が、被疑者のものと一致したことな
どとされた。そして、被疑者の故郷のネパールを訪れ、彼の親・兄弟とも会って彼の境遇などに触れて
くる。
著者は、この事件が冤罪の疑いが濃厚に秘めていると感じ、30回にもわたる公判の傍聴に通いつづ
けた。そして、第一審では無罪判決が下りたが、検察側は直ちに控訴し第二審では逆転有罪の無期懲役
の判決が下された。
しかし、本書を読む限りは、警察の予断に満ちた逮捕、検察の証拠能力の弱さ・矛盾などから、私は
冤罪の疑いが依然強いと思う。被疑者が、不法残留の外国人であり、警察は事件発生後犯人逮捕に手間
取り、焦りから強引に逮捕に踏み切ったのではなかろうか。また、検察の証拠・証言の採用理由も牽強
付会の感が強い。
現在、この事件は最高裁に上告されているが、この本を読み、警察や検察はメンツのために、安易に
無実かもしれない人を逮捕・告発してしまう恐ろしさと怒りを覚えました。