死神は語る

 バグダッドに住む一人の商人が、召使を市場へ買物に行かせた。しばらくすると召使が真っ青な顔を して震えながら戻り、主人に報告した。「だんな様、今しがた市場の人混みのなかである女と体がぶつ かり、振りかえってみたところその女は死神でした。女は私を見て脅かすような身ぶりをしたのです。 どうか馬を一頭お貸しください。この町から逃げだして死の運命からのがれたいのです。サマラの町ま で行けば死神に見つからずにすむでしょう。
 商人は馬を貸してやり、召使は馬の背に跨って脇腹に拍車をくれ、全速力で町から逃げ出した。
 それから間もなく、商人が市場に行くと死神が人混みのなかに立っていたので、彼は近づいて行って 話しかけた。「今朝わが家の召使と会ったとき、脅かすような身ぶりをしたのはなぜですか?」
「あれは脅かすような身ぶりではありません。」と、死神は答えた。「わたしはただ驚いただけなんで す。じつは、今夜サマラで彼と会うことになっているので、バグダッドにいる のを見てびっくりしたんですよ」
Jeffrey Archer:新潮文庫「十四の嘘と真実」収録【死神は語る】より
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ジェフリー・ハワード・アーチャー(Jeffrey Howard Archer, Baron Archer of Weston-super-Mare, 1940年4月15日 - )は、イギリスの作家。元イギリス上院・下院議員。保守党副幹事長を務め、一代貴族(男爵)となっている。
北海油田の幽霊会社に投資してしまい、財産を全く失い、1974年10月の総選挙で政界を退く。1976年に発表した処女作“Not a Penny More, Not a Penny Less”(日本語版タイトル『百万ドルをとり返せ!』)が大ヒットし、借金を完済する。作家活動の一方、1985年には上院議員となり政界復帰し、党副幹事長などを務めるが、翌1986年にスキャンダルで辞任した。
保守党のロンドン市長選候補に決まり、三たびの政界復帰を視野に活動していた1999年には偽証罪に問われ、2001年7月に裁判で実刑が確定した。服役後、2003年7月に保護観察となり、“A Prison Diary”(『獄中記』)を出版、その後社会復帰した。(出典:ウィキペディア)

上記ウィキペディアの記述でもお分かりの通り、ジェフリー・アーチャーは波乱万丈の人生を送ってきており、その人生経験を活かした彼の小説はどれも滅茶苦茶面白い。
私が初めて読んだのは、勿論処女作『百万ドルをとり返せ!』であった。
架空の石油開発への投資話に騙された被害者4人(スティーブン、ジェームズ、ジャン、ロビン)が結託し、首謀者から「1ペニーも多くなく、1ペニーも少なくなく」相手に気づかれることなく金を取り戻そうとする。(ウィキペディア)
諸兄には是非この『百万ドルをとり返せ!』のご一読をおすすめしたい。ジェフリー・アーチャーの外の著作も読んでみたくなること必定と思う。