上海便り−労働節前夜 

2005年4月30日   

 御地は大型連休に入り、それぞれゆっくり休養されたり、行楽に出掛けられたりしている頃だと思います。
 当地上海も5月の労働節(1日―7日休日)を控え、同じように一寸は華やいだ気分にはなってきています。見るところこれまで伝えられていたような5月1日と4日のデモの可能性はほとんどなくなったようには思いますが、全くその可能性が排除された分けではなく緊張がないかと言えば嘘になります。念のために先ほど総領事館の周囲の道路を車で通過してみましたら、道路上にバリケード替わりに沢山の40フィートコンテナーを埋め尽くしていました。念には念ということでしょうか。駐在していた日本人はほとんどが日本に向かって民族移動を起しています。小生はこちらに残り、地方に旅行に行くことにしました。何かあっても情報の伝わらない地方の方が安全だし地方には日本からのツアーも沢山入っているというので。
 さて23日のジャカルタでの日中首脳会談が僅か40分で終わり、双方共に消化不良のように映りましたが、その内容はともかくとして、その前後を境にして中国のマスコミ、知識人、学者達は一斉に日中友好ムードを演出、連日テレビ・新聞等で「大局的見地で中日友好を進めよう」、「平和裏に国家発展のために尽くすことが真の愛国」、「抵制日貨(日本品不買)は失業者を生むだけ」と懸命に訴え続けています。勿論、教科書検定、靖国問題も忘れずに報道を続けていますが、そのトーンは以前よりもかなり下がってきているように思います。現在の政府や党が最も気にかけていることは、ともかくも5月1日、4日のデモは国家の威信にかけても阻止するということであり、そのためにはあらゆる手段にも訴えるということのようです。理由は16日のデモで傷ついた対外イメージをまずは修復しなければならず、また仮に5月にデモが起これば、6月14日(天安門事件)のデモに繋がって政府批判にまで発展しかねないという懸念があるからとも言われています。今は本当のところは日本批判よりも敵は本能寺かも知れません。
 最近気のついたことを列挙すれば次のようなことがあります。

1、政府、党がマスコミを総動員して、テレビ、新聞で「無許可のデモに参加することは違法。参加すれば逮捕される」、「インターネットでデモに勧誘するのも違法」と連日訴えており、公安当局が16日のデモに関し、16名を器物損壊で逮捕、26名を拘束、その他指名手配もあり、逮捕者には賠償もさせると大々的に公表。
2、連日、知識人、学者等が意見を公表し、「勉学や仕事に一生懸命力を注ぎ成果を挙げることこそ真の愛国」、「抵制日貨は9百万人の中国人の職を奪い、中国の利益に反する」と訴えている。
3、あらゆる大学で先生達が生徒を集め、繰り返し無許可デモの違法性を説く教育、宣伝活動に取り組んでおり、小生の中国語の小老師(大学生)に聴くとその効果が既に充分挙がってきている様子。
4、この時期に日本での80名にも及ぶ国会議員の集団参拝の勇気には一瞬びっくりし、一時はどうなることかと案じましたが、何故かこちらではあまり報道していない。明らかに国内を刺激することを意識的に避けている。
5、日中首脳会談での胡主席の厳しい顔付きを態々マスコミで紹介し、主席は立派に役目を果たしたというところを見せ、国内に向かいアピールし、政府のデモ鎮圧に対する正当性の強調に活用している。
6、今日30日からの連休を前後に、世界卓球選手権、自動車ショウ、各大学の学園祭等々行事がめじろ押しだが、マスコミでこれらを盛んに宣伝し行楽ムードの醸成に努めている。(デモよりも行楽ということ)
7、過日の卓球の福原愛ちゃんの王駐日大使表敬のニュースが一斉に各新聞に掲載され、また愛ちゃんがこちらに来てからのインタビュウ記事も大きく報じられたりして日中友好ムードを演出している。
8、巷間、公安当局がインターネットに介入してメール通信を妨げているというような話も伝えられている。(どこまで本当かは分からないが、「デモ」とか「広場」という字が文章に書かれているとそれがサインとなって通信が切断されるというような方法もあるらしい。)
 一方でデモ推進派の方は「チェーンメール」という方法を編み出し、「デモに参加しよう」というメールを貰ったら、「行く行かないは別としてとにかく次の20名の人にメールを転送しよう」、というねずみ講のような戦法を繰り出したり、「デモは許可になった」というような偽情報を流してデモへの参加を訴えている様子ですが、日増しにその勢いも小さくなってきているように感じられます。
 某日系即席麺メーカーの製品の大学内売店での売れ行きが大分落ちたり、某日系ベーカリー でのパンの売れ行きが日本人などの外出が減ったために落ち込んだり、また日本料理店への中国人の客が他の目を憚って入りずらくなったりしていることなどの影響が少しは出ているようですが、今しばらくのことではないかと思っています。
 日本と中国は今や一つの大きな経済圏を作ってしまい、お互いに相手なしには生きていけない抜き差しならないところまで来ていると思いますが、このことは相手側もよく分かってきつつあると思います。最近の一連の出来事が「渦を転じて福となす」よう祈りたいものです。
 それにしても、こちらの在留邦人にとっては、「靖国神社への参拝は暫くはとにかく止めて欲しい」、「触らぬ神に祟りなし」と願うばかりです。
 靖国問題のために常任理事国入りを阻まれたり、尖閣諸島、ガス田問題に悪影響を及ぼすようなら、まさにそれこそ国益を損ねていると言えるのではないでしょうか。
 それでは明日から旅行に出掛けますが、留守中上海でデモがないことを祈るばかりです。ご健勝をお祈りいたします。                    以上