2006年9月16日   

  上海便り−パンダになりたい  


 ごぶさたしておりますが、お元気でおすごしのことと思います。
今年も8月に電力不足のため電力会社から一週間の工場操業休止を要請され夏休みを取れることとなりました。長江(揚子江)でのダム建設が進行し、また国内のあちこちで火力発電所の建設が雨後の筍のように続いていてむしろ過剰投資を心配して規制に必死になっているということもよく聴いているのですが、私どもの足元にはあまり変化はありません。ほかのことと同じくよく分からない中国事情ですが、来年からでも上海の電力供給は好転するのでしょうか。
 夏休みを利用して四川省の山(高原)に行ってきました。省都の成都から西に向かったところに四姑娘山という高山植物が多いことで有名な四つの山があり、一番高い山は標高6,250Mです。その麓の4,000M前後のところでハイキングや高山植物を楽しむのですが、成都から車で約9時間ぐらいかかり、アプローチがかなり大変でした。通常は7時間ぐらいで行けるそうですが、四姑娘山一帯(パンダ保護地域も含め)が本年7月に世界自然遺産に登録されたため、途中の道路が全面的な改修工事に入っていてどこも進行が思うにまかせず、渋滞の連続でした。来年後半に工事が終われば6時間程度で行けるのではないかと思われます。四姑娘山一帯は風光明媚で、エーデルワイズ、ブルーポピーなど高山植物多く、これからの観光スポットとして注目されていくでしょう。
 山まで行く途中に中国随一の大熊猫苑(パンダ園)があり、いろいろ面白いことを見聞きしました。一帯が保護地域の一部の中にありますが、園内は食料の竹が自生している自然の中にパンダが出入り出来る小屋を幾つかおいて、パンダは小屋に入って住むのも自由、山に入る(帰る)のも自由、という環境にしておいて、その間に人が見学出来るコースを設定し、そのコースに沿って人がパンダの生活を見せてもらうという仕組みになっていました。見えるパンダもいろいろで、高い木の上で休んでいるものもあれば、草の上で居眠りしているものもあり、またパンダどうしでふざけ合っているものもいれば、遊具で遊んでいるものもいるという様子でした。
 パンダは基本的にかなり怠けもののようです。恋をするのにもあまり熱心ではないようで、まず子供を産みたがらない、子供を産んでも子育てが下手で子供が育たない、小さな子供を踏みつけてしまうというようなことがあるようです。ただこれには歴史的な背景もあるようで、パンダにも受難の時代があり、環境や食料などの事情で生きていくのが大変な期間が長く続き、自分一人(一匹?)が生きていくのが精一杯だったため勢い自己保護の意識が強くなったという説もあるようです(本当かどうかは分かりませんが)。自然に任せていては個体もなかなか増えないため、パンダ園では人口受精で増殖をはかっていて、産んでも親はあまり子供の面倒を見ないために園内には飼育のための人間と同じような保育器などもある冷暖房完備の部屋を用意したり、パンダ専門病院を設置したりとそれこそ至れり尽くせりの対策をとっていました。大人のパンダも冷暖房完備の小屋を利用出来るようになっていますが、冷暖房に慣れてくると、暑いときや寒いときなどはなかなか朝起きてこず、午後からおもむろに小屋の外に出勤というつわものもいるようです。
 中国政府のパンダ保護育成に対する熱の入れようは大変なもので、全国に幾つかのパンダ保護地域を指定していますが、これをさらに拡大するために新たな指定を行ったり、保護地域と保護地域を繋げるためにその中間地域にある人家や田畑を取り払い自然に戻す対策を省レベル間でも講じていくそうで、いわばダムを造るために人家、田畑を犠牲にするのと同様なことをパンダ対策でも行っているようです。
 四姑娘山に行く途中の道路工事で出稼ぎの人達などがテントに寝泊りしながら無論冷暖房もなく、一日何十元で働いているのを見ると、見聞きしてきた種の保存のためのパンダ保護とはあまりにも好対照なので、出稼ぎ労働者に代わって「パンダになりたい」と思わず叫んであげたい心境になりました。
 パンダ園では近々台湾に送るという2匹の若い元気なパンダがじゃれ合っていましたが、名前が「団団(tuan tuan)」と「園園(yuan yuan)」というそうです。台湾ではこのパンダの受け入れをめぐって賛成派と反対派の間で一悶着あったようですが、「団園」は中国語で「再会する」、「一緒になる」というような意味ですから、暗に台湾統一を示唆するような命名をしているわけで、台湾側もパンダは可愛いから欲しいものの複雑な心境だろうと思われます。中国のしたたかさとでもいえましょうが、いずれにせよ中国が大事にしているパンダは中国にとって今後も大変重要な外交資源の一つとしても活用されていくのではないでしょうか。

了