2006年9月17日   

  上海便り−学卒者の就職難  


 毎年10%以上の高度成長が続いている中国では労働需給もかなりタイトではないかと思われがちですが、沿岸地域(広州、深?、上海、天津等)の現場労働者については年々最低賃金が大幅に引き上げられるなど確かにそのようなことがいえるものの、内陸では沿岸地域との経済格差が大きく著しい過剰労働力があり、また沿岸地域でも高学歴層では大変な就職難の時代を迎えています。
   小生の会社でも例えばインターネットで大学・大学院卒の募集をかけたりするとたちどころにかなりの日本語能力をもった人達から沢山の応募がくるのにびっくりします。この背景は次のように考えられます。
 第一に高学歴志向が挙げられます。一人っ子政策の影響で、数少ない子や孫に対し一族あげて満足な教育を受けさせたいという願望が強く、親が金銭的に無理をしてでも小さいときからピアノや英語などの習いものをさせることから始まり、小学校でも少しでも良いといわれる学校があれば家から遠方であってもその校長さんにつけとどけをしてまで無理して入れてもらったり(学区制はあってもないようなものなのでしょうか)、有名大学に入れるために何人も家庭教師をつけたり、塾に通わせたりと、想像以上に子供の教育に力を入れています。親達が満足な教育を受けられなかった時代に育ったために子供にはなんとか高等教育まで受けさせたいという切なる親の願いの表われかも知れません。
 第二に政府もこれに応えて大学数を年々増やし、学卒者の供給が増えている現状があります。また大学の過程もいろいろ複数路線になっていて、通常は日本と同じく小学校6年、中学3年、高校3年、大学4年が標準教育年数ですが、大学も2年、3年の日本の短大のような制度もあり、また中学・高校の途中から専門学校に進む制度もあり、このような4年制大学過程を経ていない他の複数路線による卒業生を総称して「大専卒」(大学専門課程修了者とでもいうのでしょうか)といいますが、この数がやたら多いのに驚きます。「大卒」条件で募集すると応募者の半分程度は「大専卒」ということもあります。何が何でも「大学」と名のついた卒業資格を取りたい、取らせたいという子と親の悲痛な気持ちがそこにも表れているような気がします。
 第三に、上海の場合、地方の学卒者も就職のチャンスを求めて上海に集中し、供給がさらに加速される傾向にあります。
 一方学卒者の需要サイドはどうかといえば、第一に国営企業は年年淘汰されてその数を減らす一方で採用者も減る一途です。いまや非効率の代名詞ともなっている国営企業は政府の目の仇になっているわけです。第二に国内一般企業も景気が良いとはいいながらそれほど一気に高学歴者を必要とはせず、現場労働者は増やしても高学歴者をそう数多く採用するわけではありません。だからといって高学歴者が何が何でも職を求めて現場労働につくのにも勿論抵抗感があるわけです。
 かくなる結果、高学歴者のはけ口は、上海の場合勢い外資企業に求めざるを得ないということになります。中でも企業数が多い日系企業に最も期待がかかっています。大学を卒業してもなかなか就職口も見つからない状況で、日系企業にはその可能性もあり、そこになんとか就職先を見つけたいという若者が多く、またそこで職を得ることが一つの社会的なステイタスシンボルにもなってきているようです。
 中国の場合英語学習は早くから小学校でも始めるようで、高学歴者では一通り英語をこなせるのが当たり前になっていますが、日本語となるとそうはいかず、やはり特別なコースをとらないと身につきません。そのためには大学の日本語学科や日本語コース、また日本語専門学校を志さねばならず、したがって新聞の外国語学習・留学案内の広告欄でも英語と並んで日本語学習の広告が他を圧しています。反日の記事の横に日本語学習の広告があることも稀ではなく、一筋に就職のために日本語を勉強したいという若者がそれほど多いということを示しています。このことは日系企業にとっても、日本語能力を持った優秀な高学歴者の供給が増え買い手市場になっているということで好ましい状況ともいえます。
 学生にとっての日系企業の魅力は就職口というだけに止まらず、
@ 学卒者では賃金も中国企業や他の外資系に較べるとやや高め。
(マネージャークラスは欧米系の方が高い。責任と権限も与えている。)
A 労働条件も良い。
B 安定性がある。
などの点にもあるようです。同じ外資系でも台湾や韓国企業にはかなりひどい労働条件もあると聞いています。(日系が甘いということかも知れませんが)
 昨年の反日デモ以降約一年間、日本からの投資が減り中国経済に少なからぬ影響が出てそのしわ寄せがこのような学生の就職事情にも及んでいるわけですが、最近の中国政府の対日軟化(?)ともとれる一連の動きにはこのような状況も既に織り込まれているのかも知れません。ともかくも就職口が見つからない学卒者にとっては反日どころではなくとにかく生きるためにはどこでもよいから就職出来るところを早く見つけたいというのが本音ではないでしょうか。
 需給関係からみて学卒者の就職難は今後も長く続くとみられ、このように企業進出により就職の機会を創出し中国社会に大きく貢献している日本企業の働きを率直に評価しさらに柔軟な対日政策をとっていく必要が当局にあると思うのですが、如何でしょうか。

了