2006年9月25日   

  上海便り−一人っ子政策の弊害  


 人口増抑制のためにとられた中国の一人っ子政策は改革開放政策が始められた1978年に次いで1980年から実施され今日まで大きな成果を挙げてきたといえます。
 一人っ子政策というとどの夫婦も一人の子供しか持てないように理解されがちですが、この政策にはそれなりにきめ細かい措置も含まれていて、例えば、
@ 少数民族(中国には全部で56民族がある)には例外規定を設けている。
A 最近は、一人っ子政策を始めて(198年)から生まれた人達が結婚年齢に達したので、一人っ子どうしが結婚した場合には二人までの子供が認められる。
B 農民には地域によって特例が認められることがある。
C 離婚する前に子供を産んだ女性が子供を前夫に渡して再婚した場合、次の夫に子供がいなければまた子供を産むことが出来る。
というようなこともあるようです。
 人為的に取り組む政策ですから弊害が多いのは当たり前のことですが、弊害の幾つかを挙げてみましょう。
 今の若い世代はほとんどが一人っ子政策の申し子ですから、一人っ子の場合、父母、二組の祖父母にとっては子供、孫が一人しかいないこととなります。したがって最大計6人の父母、祖父母達の関心は専ら一人に向かって注がれ、子供にとってはややもすれば寵愛の的となって皆から下にも置かれないように大事に育てられるわけです。子供は6人から小遣いをもらい、小さい頃からいろいろ習いものにも通い、不自由なく育てられるため、勢いわがままな性格になる子も多く、このことを皮肉って一人っ子を「小皇帝」と比喩することもあります。
 また、最近は男女産み分けの技術も発達しているため、特に農村地域では働き手として期待出来ない女の児は非合法の内に産まずに済ますことが多くなっていて、この結果全人口の男女性別比率は男性比率がどんどん高くなってきて大きな問題になり、政府としてもいろいろ手を打っているようですが、なかなか成果は出ていないようです。
 家庭的にも社会的にも揉まれ方が少なかった一人っ子の若者が今まさに結婚年齢(25歳前後)を迎えているわけですが、一般的に未成熟な者も多いといわれ、特に数に勝る男性にその傾向が強いといわれています。若い女性達の間の会話では「若い男性と結婚するのは、相手が幼稚なので子供が生まれる前から子供を一人余計に抱えるようなものだ」という本音ともつかない笑い話もよく交わされているようです。(日本でも同じでなければいいのですが)
 この程度の会話で済むうちはまだいいほうですが、実際に最近は上海では若い男性に結婚相手が見つからない結婚難の時代を迎えているようです。
 経済の発展に伴って上海での女性の社会進出も著しくなっていますが、中国では原則的に職業による男女別格差はありませんから仕事を持てば男性並の対等な収入を得ることが出来るので、職業を持つ女性にとっては自分よりも低い地位や収入の男性は結婚相手として選び難く、もっと高レベルの方を見ることになるようです。したがって、@収入が自分と同等レベル以上、A家(マンション)がある、B小金がある、が結婚の条件になるようです。一昔前の日本の3高(高収入、高地位?、背高)と同じです。しかし不動産バブルの兆候もある上海で家を持つのは大変なことですから、男性にとってはこの条件を満たすのは至難の業といえます。この結果上海の男性は親戚から借金をしてまで無理して家を購入するか、さもなくば上海の女性を相手として選ぶのを諦めるかということとなり、最近では外省人(地方出身の女性)を相手に選ぶケースも多くなっているということです。若い男性にとってはまことに同情すべき厳しい時代が到来したことになります。
 このように、一人っ子政策がもたらした男性過多社会は中国にまた新たな歪みを一つつけ加えたわけで、人口抑制の立場からは一人っ子政策をそう簡単に放棄出来ない中国政府としては大変苦しい状況におかれているわけです。さらに事態が深刻化しない内に早目にきちっとした対策をとる段階に来ているように思われますがそう簡単に妙案が出るということでもなさそうです。
 一方で少子化という大きな問題を抱えながらも「男女産み分け」にはそれほど拘る傾向もない日本は中国と較べるとまだまだバランスがとれた社会(国)とも言えるのかも知れません。

了