2007年1月14日   

  上海便り−台湾の弱体化  


 上海からみていると台湾が対中国との力関係で最近とみに力を弱めているように思われます。これまで台湾は政治的・軍事的に中国とは一線を画して一国としての形を保ってきましたし、現在でも軍事的には対立関係にあることは間違いありませんが、こと経済面についてみるともはや一国の体裁を崩しつつあるようにみえ、極端な言い方では既に中国の一部地域と言ってもよいような状況になりつつあるように思われます。敢えて中国が軍事力で力づくで統一するまでもなく、経済面では既にかなりの程度事実上の統合が進んできているようにも見えます。
 上海地域に住む台湾人の数はいまや一口に百万人ともいわれ上海人口の約5%程度にものぼり、われわれ部外者からみると国どうしの厳しい軍事的対立関係がある中でどうして上海にこんなにも沢山の台湾人が住んでいるのか、安全は大丈夫なんだろうかと単純に疑問が出てきてしまいます。中国全体でみればさらに多くの台湾人が住んでいることになります。上海で最近増加著しいと言われる日本人ですら居住者約5万人、一時通過者(出張者、旅行者等)を入れても約8万人ですから台湾居住者の数は桁が一桁違うわけです。表向きの対立関係はどうあれ、これまで発展途上にあった中国にとっては、経済・技術などの面で進んだ台湾の力を借りなければ今日の発展はなかったでしょうし、同様に台湾にとっても自国の人口も少なく、国内市場が狭隘な状況の中で好むと好まざるとにかかわらず、中国市場を自らの市場として組み込んでいかなければ自国経済の発展も覚束なかったのもまた現実であったといえましょう。長年の間にこのように水面下で両国の経済交流、一体化は徐々に進んできていたわけで、両国の経済面の依存関係はもはや避けて通れない既成の事実となっており、特に台湾にとっては発展著しい中国の市場なしには台湾の将来はもはや存立しえない段階まできているように見えます。武力侵攻などというのは口先だけのことで、両国指導者も今では全くそんなことは夢にも考えていないのではないでしょうか。お互いに暗黙の了解の内に、今後さらに長い時間の中でゆったりと統合の道を歩んでいくように思われます。
 中国国内市場における台湾系企業のプレゼンスを見れば多くの分野で台湾系の進出が目立ち、特に食品分野では台湾メーカーがトップブランドを占めている食品類が数多くあります。ブランド(会社)名では康?傳、統一などがその代表的なものですが、即席めん、飲料水、菓子類などかなり広範囲な分野でブランドを浸透させています。また、製パンメーカーやベーカリーチェーン(パン系列店)では最近でこそ日系パンメーカーの進出がぼつぼつ見られるようになりましたが、現在中国企業をさしおいて有力企業はほとんどが台湾系で占められています。勿論、中華料理店経営は枚挙に暇がありません。投資対象として上海の高級マンションを所有している金持ちの台湾人は多く、彼らはこれを賃貸しして稼いでいます。もともと同じ中華系人種ですから、若干方言の違いがあっても、中国人との意思疎通は問題なくそれだけ中国社会にた易く浸透しているわけです。
 これまで中国側は対台湾基本政策として、3通不可、即ち、通行・通信・郵便を両国間で直接交流することを禁じ、行き来は今でも原則香港乃至第3国経由などでなければ出来ませんが、最近は春節、労働節(G.WEEK)などの大型連休には上海―台北間直行便を開設したり、その他もろもろの便宜を図り規制を緩めています。台湾側も一定の範囲でビザなし渡航受け入れを始め、両国間の人の行き来がどんどん増えています。
 またお役所の行政指導なども、原則を崩さない限り台湾企業には結構甘いところがあるようで、課税などの面でも阿吽の呼吸で税金を減免したりすることもあるそうです。日系、米系外資などでは全く考えられないことです。方々、言葉の問題もないため単身で住んで(駐在)いる連中も多いとなると女性絡みの痴話騒ぎも日常的なようで、上海の殺人事件ではこの種の事件に巻き込まれ殺される台湾人の数が一番多いそうです。因みに警察沙汰では日本人は女性問題よりも麻薬事件で公安に拘留される数がずっと多いと聞いています。
 さて、もともと同根の中華系ですから台湾人がこのように中国社会に深く浸透しているのはいわば当然といえば当然ですが、一方でこの状況の中で台湾が自ら弱体化の方向に進んでいるようにみえるのが気にかかるところです。
 知人のある台湾の大学教授と経営者の二人に最近聴いたところによると台湾の現状はかなり憂うべき状況にあるようです。
@ 陳水扁政権与党(民進党)も野党(国民党)も汚職まみれで国民が信頼するに足る政党も政治家もいない。台湾の将来を担うべき政治家もなく国民は皆悲観的になっている。中国に対抗していく余力が無くなってきている。
A 各分野の若い優秀な人材が自国台湾に期待が持てず中国に向かって流出し始めている。この傾向が続くと台湾に人材がいなくなってしまう。
B 若者に覇気がなくなり、最近の中国や韓国の若者のように、がむしゃらにひたすら前をみて突き進んでいくという勢いがなくなってきている。(どこかの国に似ているかも知れません)
C 国内にはIT関係を除き新たな投資分野が少なく今後経済成長を促すための材料に乏しい。中国市場依存がますます強まる。
D 人民元は対米ドル切り上げが続きますます強くなってきているが、台湾ドルは米ドルにペック制でリンクしており、通貨価値からみても人民元の対台湾ドル絶対的優位は揺るぎない。
 このように台湾の対中国弱体化が目立ちはじめ、中国の台湾に対する広い意味での優位性がますます強まっている中で、今後両国の経済的な統合が平和裏にさらに進んでいくのか、また台湾が新たな対応をとっていくのか注視していかなければならないと思います。

了