2007年(平成19年)3月18日   

  上海便り−世界一の上海の日本人学校  


 日本人が数多く居留している世界の主要都市には日本人学校が設置されていると思いますが、上海にも1985年から上海日本人学校が開設され昨年20周年を迎えました。ここ数年の中国、特に上海への日系企業の著しい進出に伴って駐在員が帯同する家族の数も増え続け、日本人学校に通う生徒の数も急増しています。小生が4年前にバンコクから当地上海に赴任した頃は、日本人学校に通う小、中の生徒数計は、確か1,600名前後で、それまでは日本人学校として断トツで世界一の座を維持してきたバンコクと一、二を争う位置に並んだのかなと思っていましたら、ここ数年の急増で一挙にバンコクを追い抜きました。本年2月末現在、小学生1,944名、中学生412名、計2,356名にまで昇り、さらに来年3月末には2,600名程度にも達すると見込まれています。バンコク校を遥か後に見る冠たる世界一の日本人学校になったわけです。
 1985年開校時には市内西部の虹橋地域に虹橋校を開設し、生徒の増加に合わせて校舎の増設をはかり、また共有スペース(音楽室とか)まで活用しながら何とか増える生徒数の吸収に努めてきたのですが、ついに何ともし難いパンク状態に至り、昨年4月に市内東部の浦東地域に新たに浦東校を開校し、生徒の収容を開始、漸く一息つける状況となりました。従って現在、日本人学校は2校舎に分かれています。浦東校を建設するにあたっては関係者の大変な苦労がいろいろあったと聞いています。中国は基本的に土地は国有ですから、まず土地の斡旋を上海市政府から受けなくてはならないわけで、日中関係があまり良くない状況の中で、希望に見合う敷地のリースに辿り着くまでに紆余曲折もあったようです。また建設費は基本的に文部科学省予算からまかなわれますが、文科省は当地に人を置いてはおらず、また建設のノウハウもないので、総領事館と上海日本商工クラが手を結びこれをバックアップし、結局ノウハウと人的な支援は実質的に商工クラブが担い、開校に漕ぎ着けることが出来た次第です。
 日本商工クラブの内容の紹介についてはまた別の機会に譲るとしますが、商工クラブは事実上いわゆる上海の日本商工会議所と言っていいかも知れません。各国商工会議所の開設は中国内一箇所のみ設置可という中国政府のこれまでの基本方針にしたがって正式な日本の商工会議所(中国日本商会)は唯一北京にしか認められず、1980年代から実質的な活動を続けてきた上海日本商工クラブも公認の団体としては認められず長く継子扱いを受けてきました。2004年に至り漸く上海市により準公認団体として認められ、正式に活動が許可されることになりました。いまや上海日本商工クラブの所属会社数は2,000社を超え(2月末現在)、業種別部会も12に及び、規模からして北京の商工会議所も寄せ付けぬ押しも押されぬ中国一の日本関係団体であり、中国政府もこの実態をいやが上にも認めざるを得ないところまできていたわけです。ただこの間、外国人の自由な団体活動は許さず、当局の意に馴染まない政治、経済活動は厳しく監視するという中国政府の大変厳しい壁の前で、日本企業の団体活動を認めさせるに至るまでには多くの先人の労苦があったことを忘れてはなりません。会員から会費を徴収することすらままならず監視され続けてきた状況から比べれば今日は隔世の感があります。
 この上海日本商工クラブの重要な活動の一つが、日本人社会の支援であり、その延長線上に日本人学校の人的、経済的支援があります。上海市当局との諸々の折衝にあたっては総領事館などと共に行動し、校舎の建設にあたっては建設関係の各企業が中心となって施工管理し、また学校そのものの運営についても、学校当局、PTA、総領事館などと共に学校運営委員会を組織、参加し、協力しています。学校運営委員会では委員長は商工クラブから、また委員も商工クラブから最多の人数を送り出し、何とPTA会長まで商工クラブ会員会社から出すことに決まっており、学校に対し全面的な支援体制を敷いています。PTAの活動は、日本国内同様、実質的にお母さん達が担っているのですが、何故PTA会長を商工クラブから出さなければならないのかといえば、やはり男性がいないとPTAもまとまりがつかない場面があるからという理由によるのだそうです。
 目下の日本人学校の最大の課題は、来年には2,600名にも達すると予測され、さらに増加も見込まれる生徒数を如何に収容していくかということで、直ぐまた校舎の増築にかからねばならないのではないのかと、その是非についていろいろ議論が交わされています。意見は主に二分され、@目の前の生徒の増加に圧倒され、今直ぐにでも増築が必要と説く学校側の主張、A商工クラブへの新加入企業数の傾向からみると、日系企業の上海進出の勢いも昨年から今年にかけてやや峠を越した感じもあり、このまま生徒数が増え続けることはないのではないか、もう少し成り行きを注視の要あり、と説く商工クラブなどの主張、とに分かれています。
 この内、日系企業の上海進出の勢いもピークを過ぎ、生徒数も一定の水準で落ち着くとみる意見の根拠は次のようなものです。  
@ 一昨年の反日デモ以降、日系企業のアジア進出も、チャイナリスクを重視、中国以外のベトナム、インド、タイなどの諸国に生産拠点を分散、中国一極集中でなくなった。
A 今月開催の全人代で決定をみた「外資優遇税制の5年以内の廃止」でみられるような中国政府の外資導入政策の転換による影響。
B 人件費等諸コストの上昇。
 また一方、日系企業の進出も生徒数も尚増加を続けるとみる見方には次のような理由があると思われます。  
@ 中国を中国以外への輸出のための生産拠点としてではなく市場としてとらえ、その市場に参入するために新たに生産拠点を求める企業進出の増加。
A 諸コストの上昇もあるが、まだまだ吸収可能であり、また優秀な人材確保の面でも日本国内より有利。(新大卒就職率70%)
 今後、日本人学校の生徒数の帰趨がどのように行き着くかは、日系企業が中国をどう見ていくかということの反映であり、これには今後の日中関係なども作用するでしょうが、成り行きを注視していきたいと思います。

了