2007年(平成19年)3月21日   

  上海便り−にせもの市場  


 中国国内ではいわゆる「にせもの(コピー)市場」がある町も多く、かなり公然とブランド製品のコピーなどが売られており、特に北京と上海にはかなり規模の大きな「にせもの市場」がありました。WTO加盟以降中国も遅まきながら知的財産権の保護に取り組む姿勢を見せ始めていますが、特に北京、上海の象徴的ともいえるこの二大にせもの市場の存在は北京オリンピックや上海万博を控える中国政府にとって対外的な印象を悪くする目の上のたんこぶとなっていました。昨年政府も漸く重い腰を上げ業者達の強い反対を押し切って相次いで強制撤去を強行、ともかくも市場閉鎖に漕ぎ着けました。上海のこの「襄?(xiang yang)市場」は中国最大のにせもの市場で店の数は数百軒、一日に訪れる客の数も数万人(ことによれば一桁上かも知れません)といわれ、市場の中に入れば人ごみでまともに中を歩けない程の混雑ぶりでした。世界中の有名ブランド製品のコピーが何でも揃うので国内はいうに及ばず、世界中から訪れる観光客、出張者などが、上海に到着するのもつかの間、ホテルのチェックインは後回しにしてまず真っ直ぐ市場に直行するのも珍しくなく、案内する現地駐在員の欠かせない大事な仕事の一つになっていました。現在、市場が撤去された跡地は廃墟のようになっていて、あれほどの賑わいが全くうそのようで、まさに「つわものどもの夢のあと」の静けさです。跡地にはまもなくまた高層ビルが立ち上がってくることでしょう。いよいよこれでコピー商品も上海の町から一掃されるのかと思うと名物市場だっただけに心なしか一抹の寂しさを感じたものです。
 ところがどうして、それはそれ、やはりなんでもありの中国、よくよくみればコピー商品はしたたかに街中に生き残っていました。
 最近市内の幾つかのビルの中に三々五々小ぶりな新しいショッピング街が出現したのですが、実はこれが撤去を強いられた業者側の新たな生き残り作戦だったのです。業者側も必死に生活権をかけて移転先を捜したらしく市内何箇所かに分かれて何十軒づつまとまって移動、元気に営業再開していました。地下自動車駐車場などを改装して店開きしたグループ、ビルの階上階(例えば2、3階)に潜り込んだグループ、等々様々で、一見土産物屋風を装った小奇麗なショッピング街となっていますが、よく見れば誰が見てもコピー商品とすぐ判るような時計類やルイヴィトン風のバッグ類などをところ狭しと並べ公然と営業していて、撤去前の店となんら変わりがない有様です。共通して変わったのは皆ビルの中に店があることだけです。要するに、襄?市場のようにフラットな路面の上に纏まって派手に店を開いて商売するのは目立つから駄目で、ビルの中とか街路から見えにくい場所で営業する程度なら公安(警察)も、当面見て見ぬふりをして黙認しておこうかということのようです。外国の目もあり、政府や公安(警察)としても取締まり強化の姿勢は見せねばならず、一応路面の市場だけは排除するものの、一方で店の生活権も無視するわけにもいかず、とことんまで徹底してコピー品を追い出すところまでは本気にはなれないようです。現に以前から街中で一軒毎に堂々と営業しているDVDコピー屋などは最近その数を逆に増しています。にせもの取締り強化は体裁を繕ろううわべだけのことだったようです。これでは「ブランド商品コピーの知的財産権侵犯による遺失利益が膨大」と怒るECの気持ちもごもっともと言わざるをえず、実際にはまだまだこのような中国に特有な曖昧な状況が今後も続いていくのではないかと思われます。
 にせもの新商法としては、手で引くリアカーにコピー商品を満載し、街中を移動しながら店開きする新手も最近出現してきました。公安(警察)も役目柄時々は監視の目を光らせているらしく、この公安の目を気にしながら巧みに街中を移動して営業しているようです。
 にせもの商法の一番巧妙な手口として、目立たない路地の奥まったところの二階などの中に大きなスペースの店を構えているのですが、そこに行くには表通にある女性ファッションの店などにまず入り、その店舗の中を裏に通り抜け、裏の路地からまたそのコピー店のある別棟に入るという手の込んだ経路を経ないとそこに辿り着けない仕組みになっていて、馴染みの常連客だけを中に受け入れるものです。この類いの店は堅実に売り上げを伸ばしているようです。
 コピー商品の生産地でみると、中国製が多いのは無論ですが、時計、バッグなどの高級コピー品には韓国製が多いのに驚かされます。何故韓国なのか、よく分かりませんが、技術、コストで優位性があるのか、ことによったら北朝鮮製を韓国製と称しているのか、コストが安い筈の中国製でないことが一つの大きな謎といえます。
 またコピー商品の主要な購買層を大別すると、一つは中国人の低所得層、もう一つは日本人、欧米人を含む外国人に分かれるようです。「外国は、WTO加盟後も中国がまだコピー商品を擁護していると非難するが、そのコピー商品を一番買っていくのは他ならぬ外国人だ」と不満をいう中国人も多いのですが、確かに面白半分に買っていく外国人にも大いに責任があります。日本人駐在員にも「7?10元程度で売ってるDVDコピー品が無くなったら生活に潤いがなくなる」などと、つい本音をもらす人達も少なからずいます。
 でも最近は、中国の一定レベルの収入のある若い女性達には日本人女性同様「コピー商品は恥ずかしくて持てない」というような意識も出始めており、徐々に変化の兆しも一部には見えてはいます。
 泥棒と同じくコピー商品もなくなることは絶対にないでしょうが、オリンピック、万博を控え、コピー商品取締りに中国政府が何時本腰を入れるのか注視の要がありますが、ことはそう簡単ではないように思われます。

了