2007年(平成19年)5月7日   

  上海便り−日本に対する好感度  


 昨秋からの両国首脳の往来で日中関係も双方で修復に努めているやにうかがえるものの、ここ二、三年の日中関係をみれば、中国人が日本に好感を持つことなどあるのかという人も多いかと思いますが、それぞれ視点を変えてみると好感を持たれている面も少なからずあることに気づきます。一見、この国の対日好感度が低いように見えるのは、特に昨年までの中国政府の日本バッシングに影響されたところが大きいと言えますが、それとは別のところで国民はしっかり相手国の現実をよく見ています。
 昨年12月3日に世界48ヶ国で日本語能力検定試験が実施され、約53万人が受験したと伝えられていますが、そのうち中国では何と前年比46%増の21万人が受験し、国別では断トツでトップを占め、日本語熱の高まりを示しました。この背景には折からの就職難のため、比較的就職のチャンスが多い日系企業や日本での就職の機会を得ようとする若者達の現実的な理由や、最近の日本文化に対する憧れなどがあるようです。
 日中関係が最悪ともいえる2005年11月に日経BPNet(上海サーチナ)が中国全土のモニター7,000人から有効回答を得た調査によると、国内で流通している各国製品のブランド親近感ではトップ30の内、何と日本ブランドが13社もあります。上位は流石に、中国のHAIER(海尓)、NOKIA、MOTOROLA、SAMSUNG、IBMなど他国ですが、最悪の日中関係の中でもSONYを筆頭に日本勢が頑張っており、今時点で再調査でもすればさらに日本製品への親近感が増していることが示されることになるでしょう。
 日本への親近感と言えば、これまではどちらかといえばこのように日本製品の高品質に関心が集まっていたといえます。電気製品といえばSONY、化粧品といえば資生堂、カメラはCANON、自動車はTOYOTA、というようにそれぞれ代表銘柄があり、値段をみれば一般庶民のふところ事情ではそう簡単に手がとどく品物ではないものの、品質面から長い目でみて日本製品はお買い得というような評価があります。TOYOTA車は高いけれど燃費や修理費を考慮すると割安とか、資生堂の化粧品(特に日本からの輸入品に人気)は中国品に比し安心して使えるとか消費者の眼もかなり肥えてきています。加えて近年、日系企業のローカル化の例もいくつか出てきていて、例えばサントリーなどは「三徳利」というブランドでビール、清涼飲料水を販売していますが、上海では市場に浸透、定着化しており、ビールはトップシェアーを維持しています。「三徳利」を日系企業の製品とは知らず、中国の会社の製品と思って飲む地元の人達も多いようです。ここまで市場を獲得するには大変な苦労があったものと思いますが、見事と感心させられます。
 また最近は特に文化面での好感度の高まりがあります。ファッション、日本食、日本食品、音楽、漫画、生活用品、等々数えればいろいろあります。上海にはいわゆる和食レストランが、500軒程度あるといわれ、勿論一時通過者を含めると8万人程度いる日本人が最大の顧客ですが、中級以下の店は、経営者も日本人以外(中国、台湾、香港等々)、客種も地元の人達というケースも多く、特に値ごろ感ある店にいくと中国の若者でいつも満杯という状況もあります。日本食は中国人の口にも馴染んでいる上、中華に比し栄養のバランスもよく健康に良いと考える人達が増えてきて、その普及に拍車がかかっているものと思いますが、店の経営者の9割方は機を見るに敏な日本人以外の中華系人種です。日本で修行したか、日本人から見よう見まねで教えてもらったかどこで和食を勉強をしたかは知りませんが、一般的にみてその品質レベルは必ずしも低いものではなく、その努力には感心させられます。このように上海の外国料理の店の数では和食店が断トツにトップです。
 つい最近会社で採用した若干日本語が喋れる女性スタッフに何故日本語の勉強をしたのかと聴いたところ、「日本の漫画を読みたかったから」という答えが返ってきました。今や日本の漫画は世界中の若者に歓迎されているので、このような現象は一人中国だけのことではなくどこの国でも起こっていることなのでしょうが、中国でもこれが確かな傾向として現われています。
 いわゆるJ−POPやJファッションが時代の最先端を行く若者達に人気を博しているのは知られる通りです。4月22日に上海体育館で浜崎あゆみがコンサート(アジアツアー)を開きましたが、なんと約6,000人の熱狂的な若者が集まり、大変な盛り上がりだったようです。舞台も億単位のお金をかけたと思われるほど豪華なものだったそうで、採算はどうかと心配になりますが、彼女のこのようなコンサートにかける意気込みと、その親善大使としての活躍ぶりに頭が下がる思いがします。
 さて、このように文化面では多くの分野で日式(日本式)が中国の人達に受け入れられてきていますが、では諸外国の内、トータルとして一番好感をもって見ている国はどこかと言えばそれは必ずしも日本ではないように思われます。
 もともと中国人には欧米に対し、抜きがたい憧れや劣等感や、またある種の同質感のようなものももっているようで、表面的には対立関係にあるように見えるアメリカに対して特にそのような傾向があるようです。@先進的な文化に対する憧れ、A社会の公平感、Bアメリカも中国も契約社会という点での同質感、C小さい時からの英語教育に対する馴染み、D歴史的に対立関係にあった期間が短い、などがその理由の一端かと思います。
 欧米企業より日系企業に就職の機会が多いため、まずは日本語を勉強し日系企業に就職するというのが職を求める手っ取り早い方法ですが、可能ならアメリカ企業の方に就職したいというのが若者達の本音のようです。
 日系企業に対しては、@幹部は日本人が占めることが多い、Aローカルスタッフの昇進に限度がある、B日本の親会社の方ばかり見ている、C人事制度、賃金制度、教育制度が不明確、等々の点で抵抗感があるようです。
 中国で日系企業がさらに定着化していくためには、ある程度企業のあり方を現地に馴染んだ形に変え、さらに同化していく努力を重ねないと日系企業に対する好感度も増していかないのではないかと思われます。政治的な状況は別として、トータルとしての真の対日好感度の醸成のためには日系企業の日式経営を日中混合経営方式に体質改善していくことも欠かせないことと思います。

了