2007年(平成19年)5月25日   

  上海便り−株式市場の過熱、みんなで渡ればこわくない  


 上海株式市場の過熱ぶりが目下世界中の注目の的になっていますが、大金を持っている人も、小金を持っている人も、サラリーマンも家庭の主婦連中も挙って皆株買いに走っているようです。偶々小生の中国語の先生(男性)も例に漏れず株の売買をやっており、最近は授業の半分の時間が株式市場の分析に費やされる日も珍しくなくなってきました。彼から聴く市場の様子の一端を紹介しながら最近の株高の背景を考えてみたいと思います。
 一般市民が株を買うか買わないかの判断理由は大変簡単で、@周りの人達が株を買って儲かっているようだから、自分もとにかく買ってみる、A証券会社の店頭に人だかりがしていればその日は買い、閑散としていれば買いは見送り、というものだそうです。外国の経済・金融市場の動向についての情報が比較的少なく、前日の外国市場の動きに関するニュースも遅れる上、もともと外国為替がどう動いているか、株売買の対象となる個々の会社の業績はどうかなど、経済・金融のしちめんどくさい事情などについては「没関係」で知らなくてもどうでもよく、要は眼に見えるところで人の動きがどうなっているかが大きな決め手になっているようです。市場参入者も日に日に増え株式市場規模も日本を既に凌駕したようですが、「外国市場に疎く自分達は井の中の蛙だ」と自認する一般市民は何となく「持たざる不安」にさいなまれて売ることには鈍感のようで、したがって勢い買いが先行する傾向が続いているようです。政府がときどき株式市場に対し牽制のサインを送り、株価急落場面を作り出したりしていますが、これも直ぐに買いに押し戻されてかなり限定的な動きに止まっているようです。
 過去にバブル崩壊を経験し誰もが市場の怖さを痛いほど身に沁み世界の市場の動きに敏感に反応しながら一喜一憂している最近の日本市場と比較すると全くの好対照といえます。
 この過熱現象についてはこれまでにもいろいろに分析されてきていますが、株高の背景には次のような要因があると思います。

@長期に亘っている二桁の経済成長。(外資に支えられているところ大)
A輸出入貿易の好調。(人民元相場変動幅抑制によるところ大)
B人民元の過剰流動性。
C2008年北京オリンピック、2010年上海万博による予測経済波及効果。
D金利水準の抑制と銀行低金利による預金の流出。
E不動産投資の規制強化による過剰流動性の加速。
Fバブル崩壊のような激震が走るのは困るが、一面で目下の景気拡大を支えている株高構造を壊したくないという政府の思惑。
G外国からの株式市場への資金の流入。等々
 勿論、最近の異常な株高現象に対し少なからず危険を感じている向きは、アメリカや日本などの外国勢のみならず、中国国内でも政府を始め一般投資家の中にも多いといえます。
 政府は最近、矢継ぎ早に、@金利の小刻みな引き上げ、A預金準備率の引き上げ、B人民元変動幅の拡大、C株式市場改革の方向示唆(※)、等の対策を講じてきていますが、今ひとつ本腰を入れて取り組んでいるようには窺がわれません(※中国人向けA株と外国人向けB株両市場の統合等)。株式市場のバブル化は何とか避けたいものの、一方で株式市場を沈静化させるために金利引き上げをはかり銀行貸し出し金利の上昇を促せば、投資の減退を招き景気の足を引っ張るのではないかと懸念が先に立つようです。経済成長至上主義の政府にとっては耐えられないことです。過熱化する市場に何か手を打たねばならないが、打てばその反動も大きい、政府にとっては「前有狼、後有虎」(後門の虎、前門の狼)です。政府が今後どのような効果ある市場対策を継続的に講じてくるか目が離せない段階だと思います。
 一般の投資家の中でも市場がこのままいつまでも突っ走ることはどう考えてもないだろうから、いつかその反動が来るだろう、それは北京オリンピックの前か、上海万博の前か、と喧しく議論が戦わされています。オリンピックか万博のどちらか、経済効果がより大きい方を境に、その一年前か、半年前頃に株価がピークを迎え、相場が大きく反転するという予測をめぐって百家争鳴となっています。
 このような状況の中で今現在確かなことは、利子の安い銀行預金を取り崩し、その金をもって証券会社に走る一般の人達が日に日に増えていることです。最近では銀行の入り口の外に小さな机を一つ置いて、「投資相談」と書いた小さな立て看板を掲げ銀行帰りの人達をつかまえる証券商法まで現われる始末です。またつとに知られるように中国企業の支払いの悪さは世界的に有名で、日頃私共の会社も売掛金の回収業務が最大の仕事とも言えるほど中国企業には悩まされ続けていますが、取引先への支払いを遅らせて無理に浮かせたお金を株式投資に回して運用している企業も数多いと聴くに至ってはもう何をかいわんやと言わねばなりません。挙って株式市場に向かってお金の流出現象が起きているわけです。
 前述の中国語老師も、バブル崩壊の日本の例なども教訓に、自分自身では株売買では警戒おさおさ怠りなしと豪語しているものの、一方で、
@中国では歴史的に、小さな経済変動は別にして、バブル崩壊のような深刻な経験を経ていないので、投資家に警戒感が少ない。
A人口の多さからみて、国内投資家の数も市場規模もいずれ日本やアメリカを追い越すことになろうが、市場参加者が多いため一度皆が同じ方向に向かって走り出すとその方向を変えることはなかなか至難で、どこまでその勢いが続いていくか予測がつかないところがある。
B経済の拡大はまだまだ続く。
というような楽観論も垣間見せています。
 要するに「みんなで渡ればこわくない」といった心理で社会全体が覆い尽くされている感じです。これを書いているさ中5月29日深夜に急遽、政府が交易税(印紙税=取引税)の引き上げを発表、株は急落、市場にショックを与えましたが、一般市民にはどうやら政府も市場鎮静化に本気になってきたのではないかと受け止められているようです。  
了