2007年(平成19年)7月28日   

  上海便り−本当の「日本産米」輸入  


 ごぶさたしておりますが皆様お元気にお過ごしのことと思います。目下、当地上海は1934年以来の猛暑といわれ、この半月来連日38―39度の気温が続き、中国南部から当地を訪ねる人達ですら驚いている有様です。世界的な異常気象の影響ではないかと懸念されます。
 さてこのほど中国向けに輸出開始された「日本産米」の第一陣が上海に到着し、この暑さの中、日本から農水省、全農、新潟県、宮城県などの関係者が大挙、上海に乗り込み(北京にも件の赤城農相が出かけたようですが)、大々的なキャンペーンが展開されました。市内の一部の高級スーパー店頭にも2kg詰めのお米が並び始めました。
 7月26日に市内一流ホテル(花園飯店)に日中のマスコミ、官庁、食糧・流通業界、などの関係者多数を招き、試食会をかねた披露パーティーが開催されました。今回輸入された「新潟県産米」、「宮城県産米」の生産状況や品質、また輸入されるに至るまでの経緯がこと細かく紹介されましたが、小生も日系食糧業界の代表者ということで農水省から特に招待を受け出席の機会を得ました。(日本国内では麦業界と米業界はライバル関係ですが。)
 会場では、白米、おにぎり、寿司、チャーハン、等々の今回輸入した日本米を使用した米飯類が沢山並べられ、招待客達が熱心に試食しました。最近、農水省は果物、野菜、などの農産物輸出を熱心に推進していますが、今回のお米の輸出は、その一環として取り組まれたもので、2品種計14トンを北京と上海の2都市で試験販売することとしたそうです。
 当日会場で見聞きした中で、「あれっ!」と思うことが幾つかありました。
 まず、日本側関係者の説明によれば、輸出したお米は紛れもなく、新潟の「こしひかり」と宮城の「ひとめぼれ」なのだが、ブランド名はそのまま中国国内では使えないそうです。何故なら「こしひかり」と「ひとめぼれ」の名前は、既に他の中国企業などにより商標登録されていて、元祖の日本が使おうと思っても使えないとのこと。流石すばしこい中国人(背景には日本人もいるのだと思いますが)のやることと驚くやら感心することしきりでした。(後日気がつけば、市内で既にその名前(日本語表示)で中国産米が売られていた)。結局、苦し紛れに付けた名前が、冠に「日本産米」をつけた「新潟県産米」、「宮城県産米」という地名を付けたブランド名で、その脇に小さく申し訳け程度に「越光」、「一見○情」というような中国語表示を付けるに止まったとのことです。
 また、この輸入米の末端店頭価格を聞いてまたびっくり。いずれも2kgで「新潟県産米」は198元(3,100円、kg当たり1,550円)、「宮城県産米」は188元(3,000円、kg当たり1,500円)。日本の市場価格と比べてもべらぼうに高い価格で、中国の一般市民が買う米kg3元(50円)程度と単純に比較すればこの30倍という驚くべき価格になります。会場の一部からは「こんな高い価格で中国で売れるのか」という質問が相次ぎましたが、関係者は、主に中国の富裕層と日本人を販売ターゲットにしており、「安心、安全」と「旨さと味」を前面に出して高級志向で差別化した市場開拓を目指すと説明していました。
 会場にいた何人かの中国人招待客と話てみてこれまた驚かされました。彼等はもともと何らかの形で日本に馴染みのある(日本滞在経験があるとか)人達やこれから日本産米を扱おうという流通業者達だったせいもあると思うのですが、何れの中国人達も「日本産米」は高くても売れる、市場がある、といいます。いわく、富裕層にとっては「日本の米を一度味えば中国の米は不味くて食べられなくなる」、「値段が高くても一度に食べる量はたかが知れているので、一食当たりにすれば大した出費ではない」、と異口同音の発言。さらに、「この会場で今日試食用に出されたご飯類は日本産米の本来の味が出されていない。炊飯器が中国製なのと水が原因ではないか。」とかなり極め付けのプロ級の回答もありました。
 2日後、日本産米が発売された市内の高級スーパーの店頭を覗いてみました。特別な試食コーナーを設け大勢のキャンペーンガールを並べて、華々しく販売が開始されていました。聴けば初日は大量に買い求める中国人も多く、かなりの売れ行きだったとのことですが、小生が行った日はぼつぼつという感じでした。
 しかしここでまた驚くことがありました。2kgの「日本産米」パックが並べられた同じ棚に、その「日本産米」の数以上の日本語表示の中国産米がところ狭しと並べられていたのです。いわく、「こしひかり」3kg45.80元(730円、kg当たり240円、裏に河北省産表示)、「あきたこまち、秋田小町」3kg42.50(680円、kg当たり230円、裏に吉林省産表示)、この他、日本原種使用と袋の表に日本語で書いてある日本風ブランドの中国産米が数え切れないくらい並べられていました。実は、日本人などの指導で日本米の原種を中国に持ち込んで品種改良を加えて日本風味の米開発を行うことは米どころの東北地方を中心にかなり以前から取り組まれていて、いまでは品質もかなりの水準にまで達しているという。今回発売された「日本産米」の隣にこのような「日本風米」を数多く並べたのは、この機を捉えて「日本産米」に便乗して「日本風米」の販促もかけようというスーパーのしたたかな戦略もあったのです。「日本風米」が皆わざわざ日本語表示になっているのは、まず日本人にすぐ分かりやすいこと、また(日本語の分からない)中国人にもあたかも日本から輸出された本物のように見せかけるのがその理由のようです。それにしても偽ブランド紛いの「秋田小町」の名前を麗々しく使っているのも中国ならではでしょう。
 さて、肝心の上海にいる日本人が今回輸入された「日本産米」を好んで買うかというと、いつも米をスーパーで買うという人達に聞いた範囲では、「否」という答えが殆どでした。@日本国内価格のイメージがあり、高過ぎて手が出ない(「日本風米」は中国では高級品に属するが「日本産米」はこれと比べても4倍もする)、A中国産の「日本風米」も結構旨く食べられて違和感ない、ということでした。
 さて、とかく中国産食料品の品質問題が世界的に騒がれ、中国国内でも食品の「安心、安全」が次第に叫ばれるようになり、この意味で日本産品にこれまで以上に人気が集まっている昨今、富裕層中心に「日本産米」が期待するように売行きを伸ばして行く可能性もあるかも知れませんが、一方で「日本産米」の価格に大変現実的な評価を下している日本人達も沢山いることをみると、「日本産米」が一気に市場を拡大していくことも一寸考えにくいようにも思われます。しばらくは時間をかけてその帰趨を見る要があるようです。  

了