2007年(平成19年)10月22日   

  上海便り−「中国は変わる!」北川大使との懇談  


 10月15日から開かれていた第17回党大会が終わり、中国の向こう5年間の中央の指導体制が決まり、胡錦涛政権の基盤が強化されました。成長至上主義を軌道修正し、持続的発展を目標に、格差の是正、環境汚染対策等に取り組むという胡錦涛の科学的発展観(いまひとつ言葉の意味がよく分かりませんが)が打ち出され、これまでにない中国の新しい方向が示されたようにうかがわれます。
 たまたま、去る8月29日に北京から宮本大使(日本国特命全権大使)が上海を訪れたのを機会に、上海総領事館で大使を囲む食事会があり、出席しましたが、その折これを裏付けるような大使発言があったことをいまさらのように思い出しています。
 大使は経歴からも外務省のいわゆる中国ロビーに属する人のようで、中国への思い入れがかなり深い人のようにも感じましたが、中国当局との接触の中で、「この1年間で中国そのもの、また対日関係は大きく変わったという認識を得た」と幾度となく強調したのが印象的でした。その発言の一端(8月時点の発言です)をご紹介します。

1、中央政府の政策が「経済成長一辺倒」から、貧富の格差是正、環境保護、食の安全、などの民生安定の方向に大きく舵を切った。「経済成長」一点張りの古いタイプの中央、地方の指導層は排除されつつあり、昇進の機会も与えられないようになってきた。
2、中国での汚職、不正の根源は、公安(警察)、検察、各検査機関、などの公正を重んじなければならない機関にむしろ集中しているのが実態で、国内ではこれが周知の事実として受け止められていて、最近ではこれらの機関の幹部に中央の会議でも容赦ない批判が浴びせられている。
3、昨年秋の安倍訪中で日中関係は大きく好転したが、今後予定されている本年11月の安倍訪中(既になくなった)や来年(2008年)4月予定の胡錦濤訪日によりいわゆる「戦略的互恵関係」が一層推進されると見込まれる。自民党の参院選大敗も、日本の与党、野党が皆日中関係改善を望んでいる状況の中では、両国関係に影響を与えることはない。
4、地方に行くと、政府や企業の幹部達から、「最近5年間は日中が共に背を向けて反目し交流が少なかったため、外国企業との合弁事業などもこの間、欧米企業以外に組む相手の選択肢がなかった。しかし正直に言ってその結果はあまり思わしいものでなかった。やはり一緒に事業に取り組むには同じアジアの日本企業と取り組みたい。日中関係が改善されて喜んでいる。」との率直な声がきかれ、どこでも歓迎ムードである。
5、小生コメント(安全、安心の面で海外で相次いで問題を引き起こしている中国製の食品をはじめとする製品に対し、目下世界的なバッシングが巻き起こっているが、これに対し中国からは報復的な外国製品バッシングのような対抗措置にまだ出ていない。昨年までは外国から中国製品の安全性問題を追及されると、必ずと言ってよいほど報復措置を繰り返してきていたので、今年は一寸意外な感じがする。これは来年の北京五輪などを前に国際関係を考慮して当面だけ静かにしているのではないか。中国は今後もこのように冷静に受け止めていけるのか?)に対して、
中国側も考え方がかなり変わってきた。中央政府は中国製品の安全性確保は外国の信頼を得るためにも、また国民の民生の上でも絶対的な条件であるとの認識に至り、国内の現状に危惧を持ち始めた。起きている事態を謙虚に受け止めこれを前向きに解決していこうという考え方に変わってきている。外国から批判を受けてもいたずらにこれに反発するような無益な態度に出ることはなく、今後これが逆もどりすることはないと思う。
 以上が大使の発言要旨でした。大使によれば、新指導部が示したように、中国は既に、貧富の格差是正、環境保護、食の安全確保、汚職追放、などこれまでにない新しい取り組みを始めたとのことでした。
 これまでの国内状況を思えば大使発言も俄かには信じ難いところですが、小生が関係している食の問題に限って言えば、確かに最近は状況に変化が見えています。昨年は日本が中国産品を含む輸入品に対しポジティブリスト制(残留農薬使用規制)を導入した際、中国側はこれに強く反発、「自国の食の安全を守る」という大義をどこかに置き忘れて、日系企業が扱う輸出入品に対し不当な検査を繰り返し、再三にわたり嫌がらせをしましたが、今年はこれまで外国製品バッシングのようなことがまだ起きていません。加えて10月に入り、食の安全確保のため国の威信をかけて対策に乗り出し、総元締めの国家品質監督検査検疫総局(CIQ)が全国に指令を出し、係官を総動員して昼夜兼行で、生産工場、流通、飲食店等あらゆる現場に立ち入り、内、外資関係なく徹底的な検査を敢行、各現場はその対応に追われて目を回わす大騒ぎとなっています。また、例えば日本向け豚肉、鶏肉加工品についても、日本の農水省が輸出条件としている工場認定基準を、日本よりもさらに厳しい自主基準に代えている例もあります。最近は流石にマスコミでも「食の安全」に関わるニュースがかなり頻繁に報道されるようになりました。
 ただ一方で新華社電が、日本の「赤福」事件や、アメリカ産の口紅の3分の一に鉛が入っている、というような報を伝え、それが一斉に各新聞に載せられ、一般の目をあたかも他国の事件に逸らそうとするような意図も垣間見られています。また「輸出品の半分以上は外資企業の加工貿易によるもの。問題起こればそれは外資の責任。」と言わんばかりの全く見当違いのことをいう一部の指導層もおり、まだまだという感もあります。
 中国も漸く本気で様々な改革に取り組み始めたという前述の宮本大使証言もたしかに現場で確かめられるところもあり、その通り期待したいものと思いますが、株バブルや、北京・上海の億ションが飛ぶように売れる一方で、貧しい農村では小学校のボロボロの校舎がそのまま放置されているような実態、また都市民工(出稼ぎ)の窮状、環境汚染、役人に染み付いた汚職体質、等々の現実を日頃目にするにつけ、新指導部が掲げる問題解決はそう生易しいことでなく、根の深い長い道のりを要することのように思われます。  
了