2007年(平成19年)10月20日   

  上海便り−上海日本商工クラブの社会貢献事業  


 もともと他の国から中国社会が受けている社会貢献などマスコミの話題にも上らないお国柄で、ましてや日本からのとなるとますますその傾向が強くなるのでここ上海でもあまり知られてはいませんが、数多くの個人や日系企業・団体が日中関係を良くしようという善意のもとに熱心に社会貢献事業に取り組んでいます。
 (社会貢献事業ではありませんが、上海の表玄関の浦東空港や市内の幹線高速道路が日本のODA資金で建設されたことを知る日本人もそう多くはありません。そのような表示がはっきりされていないためです。)
 上海日本商工クラブ(構成員は企業、個人を含め約2千単位)の社会貢献事業はその中でも規模の一番大きなものです。2007年の商工クラブ年間予算23百万元の内、最大予算項目が社会貢献事業予算2百万元(約3千万日本円)です。様々な事業にこれが割り当てられますが、中でも金額を最も多く割いているのが、小学校に対する支援です。
 地方の貧しい農村地域などでは、予算がないため校舎を建てたり、補修する費用にこと欠くところも多く、教室もなくて十分な授業も出来ずにいたり、また生徒も家庭の経済的事情などで学校に通えない子供も多いのが実状です。
 予算がないために各地方政府は、これを補う方策として、民間からの援助による「希望工程」、「愛心助学」なる制度を設け、資金を集め貧困地域の教育支援を行っています。
 「希望工程」は集めた援助資金を基に、校舎、教室などが不備で困っている学校に建設資金を援助するもの。「愛心助学」は特定の個人が特定の生徒に対し年間一定の学費を援助するもの。何処の学校や生徒に支援するかは各地方政府の推薦に基づいて決めます。商工クラブでは毎年「希望工程」、「愛心助学」にそれぞれ支援を行うこととし、今年度は初めて「希望工程」事業に60万元(約1千万日本円)を投じ、上海から比較的近い中国最貧地域の一つである安徽省舒城県の農村の小学校2校の校舎建設を決め、この夏に完成させました。
 9月14日に両校舎の引き渡しと開校式典が行われることなり、小生も商工クラブ社会貢献委員会の一員として、その前日夜行寝台に乗り現地に赴きました。商工クラブとして初めての善意を込めた校舎寄贈であり、一行は車中皆かなり興奮気味でした。
 翌朝、現地に到着、午前一校、午後一校の順で開校式典が行われましたが、なるほど学校に着いてみればそれはかなり貧しい農村の中にありました。
 それぞれ約150名程度の生徒全員が、旗行列と鳴り物入りの大歓迎で迎えてくれましたが、そこには立派な2階建ての校舎が完成していて、隣にまだ残っていたこれまでの老朽化した1階建ての校舎と較べるとそれこそ月とすっぽんぐらいの違いがありました。式典では地方政府の幹部達の儀礼的な感謝の言葉の披露もありましたが、とにかく先生や生徒達が真新しい出来たばかりの校舎を目の前に本当に喜んでいる様子をみて、これでゆっくり勉強が出来るようになるのだなと一行も感激ひとしおでした。明るい純真な子供達の顔を見てこちらも自分達の同時代のことを思い出しながら何かほっとするものを感じました。農村ではノートなども良いものがなかなか手に入らないということで、生徒一人5冊づつのノートを手渡しこれも大変喜ばれました。これまでの日中関係を考えると一寸迷うところもありましたが、われわれの善意を表わしてもらうために二つの学校の名前には「上海日本商工会希望小学」の一項を中に入れてもらい学校名としてまらいました。
 まだ残っていたこれまでの校舎や教室をよくみると、窓にガラスもなく鉄格子のままの教室も一部にあり、これでは寒い冬場はいままでどうやって暖をとっていたのかと考えさせられる場面もありました。多分このように老朽化した校舎が他にも全国にまだ沢山あるのだろうと推察されます。
 安徽省全体ではこの「希望工程」による援助校がこれまで既に570校に達するそうで、中国全土では約9,500校にも及ぶそうです。義務教育である筈の中国の初等教育がこのような民間の援助(特に外国からの支援が多い)に多く依存しているのが現在の中国の実情だということが、現場でよく理解出来ました。
 北京や上海では億ションが飛ぶように売れ、株式市場はバブルで浮かれ気味になり、有人人工衛星や月探査衛星を飛ばすまでに宇宙開発技術も世界の最先端に並び、軍事力強化にも他国以上に力を入れている中国が、何故一方で、ほんの僅かのお金を投ずるだけで解決すると思われる足元の肝心の義務教育の問題をこのような状態のまま見過ごし、またその解決を他の国の善意の援助に依存しなければならないという何ともやりきれない矛盾した状況のままにしているのか、われわれにはそう簡単にはなかなか理解が及ばないところです。もちろん地方により個々のそれなりの経済的事情があるのでしょうが、それにしてもその両端の貧富の現実のギャップの大きさに驚かされます。

 17回共産党大会も終え、中国の新しい政策方針が華々しく打ち出され、貧富の格差、都市・農村格差の解消にも取り組むという方向が示されましたので、義務教育の内容の改善にも力が注がれていくことを期待したいと思いますが、都市戸籍、農村戸籍の差別化の解消などかなり根深い問題もあり、様々な格差解消にはかなり大きな壁と相当な道のりを要することと思われます。
 商工クラブの社会貢献事業としては、この他、この10月に上海で行われたスペシャル・オリンピック(障害者特別五輪)にも50万元(約800万日本円)も寄付し応援した他、様々な行事にも支援金を拠出してます。
 スペシャル・オリンピックの開会式では、選手団入場行進への観客席からの拍手が、他の多くの国と較べても、日本選手団に対する拍手が一番少なかったという一幕もあったようですが、これはこれまでの日中関係を象徴する出来事の一つとして忘れることにしたい思います。  

了