2007年(平成19年)12月24日   

  上海便り−外資優遇政策の転換  


 11月末になって唐突に私どもの会社宛に、地域を管轄する税務当局から「中央政府の指示により土地使用税課税が実施されることになったので、12月20日までにこれこれの基準で納税するようにされたし」とのお達しがありました。これには本当にびっくりしました。これまで土地使用税なるものの説明を受けたことは一度もないし、今日言って明日払えというような時間的な猶予も全くない連絡の仕方に怒るよりも唖然とする方が先にたちました。聴けばどうやら外資に対して全国的に同様な通達があったようで、お上の言うことだから止むを得ないということでどこの会社も仕方なく言われるままに納税に応じたようです。土地を活用し営利活動を行っている会社(個人)が対象となるそうで、内資(中国企業)は従来から納めていたそうです。前年度中に説明があり、翌年度の予算に織り込める程度の時間の余裕があればまだしも、今回のようなやりかたは、封建時代の専制君主の下で問答無用と言われているのと全く変りません。「何でもありの中国」をまさに地でいったものともいえ、この国の体制下ではまだまだこのようなことが起こり得ることをあらためてまた一つ思い知らされました。広い中国でも土地供給にも限界が見えてきたので、外資だけ特別待遇というわけにいかないという考えになったようです。
 また2008年度からはいわゆる「2免3減半」の優遇税制にも手を加えられる方針が示され、5年後に(2013年から)撤廃されることになりました。累損が消えた後も2年間は納税免除、さらにその後3年間は税半減という外資に対する優遇制度で、これまで外資はこの制度の魅力に引かれ相次いで中国進出を計ってきたのですが、5年後にはこの優遇がなくなり内外資の区別なく同様な課税制度におかれることとなります。外資にとっての魅力の一つがこれでまたなくなるわけです。
 第17回党大会で貧富の格差是正、民族和諧(協調)の方針が強く打ち出されましたが、中国政府はこれを具現するため2008年1月から新たに「労働契約法」を施行実施することとしました。現労働法は1980年前後からの改革開放政策による経済成長至上主義を容認し、これを第一義とする考え方が強く、確かに、どちらかと言えば労働者の権利保護が二の次とされる傾向にありましたが(社会主義の下で変な話と思われるかも知れませんが)、新労働契約法ではこれを見直し、労働者保護を全面的に強調するものとなりました。簡単に言えば、@労働者に対する様々な経済保障、福利厚生を手厚くする、A各企業の労働契約もこれまでは1年契約が一般的であったものを終身雇用に誘導、B退職金増額、C従業員代表(組合)を新たに位置づけ、というような内容になっています。即ち、企業側にとっては、@労働者の権利主張に対しこれまでとは違う新たな対応が迫られる上、@経済負担が著しく増えることとなるため、経営のあり方について根本的に見直す必要が生じてきました。目下、「これでは労働者権利に対抗していくためには企業は性悪説に立って経営に望まざるを得ない」として各企業共身構え始めており、労働契約や労働諸規定の全面的な見直し改定作業に入り、この年末、年始はこの対応準備にどこも大童となっています。
 この新法は内外資関係なく、外資だけが対象となっているわけではありませんが、これも今後外資にとって大きな重しとなってくることは間違いありません。
 さらに最低賃金制度についても特に民工(地方からの出稼ぎ労働者)などの弱者保護のために2004年前後から主要都市に導入され、年々かなりの勢いで引き上げが続いています。全国でみると民工の多い深,上海の順で水準が高く、上海では実質手取額で、2004年635元、2005年690元、2006年750元、2007年840元と引き上げられました。毎年どんどん上がるので、数百人、数千人単位で工員(従業員)を雇用する工場などでは、初任給を単純にその年の最低賃金に合わせて決めていくという明解な対処方法をとる会社も増えてきているようです。
 労働契約法施行にしても、最低賃金制にしても、労働者保護という観点からは、漸く先進国並になってきたともいえ(これも社会主義国の中では変な話といえますが)、ある意味で大変歓迎すべきことといえるでしょう。
 ただ、外資に対する今年度からの土地使用税の課税賦課開始、5年後の「2免3減半」優遇税制の撤廃、などに加えさらに、労働契約法の施行、最低賃金の引き上げ、などが一度に追い討ちをかけてくると、外資としては大幅なコストアップを余儀なくされ、コスト面からの中国進出の意義を今一度問い直す要も出てくるというものです。
 僻みかもしれませんが、
「外資導入によりこれまでは中国、外資双方共お互いにメリットを享受するところがあった。しかしこれからは土地供給にも限りあり、敢えてこれ以上外資の積極的な進出をあおぎその役割に期待する要もなくなった。むしろ外資には納税や賃金支払いを通じ民生安定のために貢献してもらいたい。」と中国政府が言っているように聞こえてきます。
 現にすばしこい台湾や香港企業の中には広州などからすでに撤退を始めているところも出てきているという情報も伝えられています。
 このような矢つぎばやの中国政府の一連の新たな施策が外資の中国進出の勢いにこれからどのような影響を及ぼしていくのか、一つの大きな転換点にさしかかっているといえそうです。  

了