(加筆)餃子事件に関する2月28日公表の中国公安当局見解により、残念乍ら以下の小生希望的推測も外れることになりそうですが、ご参考までに公表直前までの状況としてお伝えしておきます。

2008年(平成20年)2月26日   

  上海便り−農薬混入問題(1)  


 1月末から2月初旬にかけて上海・華東地域も50年振りとかいう大雪と寒波に何度も見舞われたりしている内に1月末に日本で餃子事件が起き、その後農薬混入(残留農薬)問題が相次ぎ、いや応なしに私どもの会社も渦中に巻き込まれることとなりました。
 冷凍食品業界に小麦粉調製品(ミックス状のもの※)を供給し、この業界と密接な関係にある私どもの会社としては、ことは一大事で、ことの成り行きによっては会社の将来にも関わることとなります。
(※唐揚、天ぷら、とんかつ、麺、ベーカリー製品等あらゆる冷凍食品用途に使われる。
 因みに餃子の皮は通常は小麦粉のみ使用。)
 とにかく一連の事件の原因究明が一刻も早くなされ、輸出環境が正常な状況に戻って欲しいと望むこと切なるものがあります。それだけに日本側での状況証拠が揃っているとみられるのに、まだ明確な説明をしていない中国側の態度に大変もどかしさを感じます。
 今や中国製冷凍食品は中国にとっては重要な輸出商品として、また日本にとってもコスト・量の面から、需給上、欠かすことの出来ない位置を占めており、解決が長引けば長引くほど、それだけ両国の利益を損なうことになります。
 先に小生の「便り」の中で、「日本向け輸出食料品に関してはともかく目下は厳しい検査がなされています」と報告した手前もあり、一関係者として中国国内の本事件をめぐる現状を少しでもお伝えする責任もあるかと思います。最近では日本で得られる中国情報の方が、早くかつ正確なことも多いので、以下の独断と推測をご寛容下さい。
 結論から言うと一連の事件について、中国側が態度を鮮明にするまでにはまだ一寸間があるのではないかと思われます。その理由は次の通りです。
1、 日本の餃子事件の発生(発覚)が、丁度春節(中国正月)時期に重なっていたことです。今年は2月6〜12日が春節休日で、全国的に休日となりましたが、一般的に労働集約型の工場は現場作業員を地方から集めており、冷凍食品工場等も含め作業員達は春節には一斉に前後約1ヶ月程度の休暇をとり帰省するのが通例です。帰省した作業員達が郷里で友人達と盛んに給料等の情報交換をしてさらに条件の良い他の働き場所を見つけた場合や、またいままで働いていた工場に何らかの不満があったりした場合、そのまま春節明けに工場に戻って来ないことも茶飯で、この戻り率が何%になるかというのが毎年の工場側の関心事になっています。賃金を安く抑えている工場などでは歩留まり半分以下のところも少なくないと聞いています。餃子事件発生時には既に現場の作業員達は帰省した後で、多分、現場作業員達から直接事情聴取、捜査することは出来なかったとものとみられます。また捜査側のCIQ(国家質量監督検験検疫局)や公安(警察)捜査員達にも休み気分もあったのではないでしょうか。工場内の写真をいくら撮ったところで原因究明には結びつかないでしょう。河北省天洋食品(餃子事件)工場内の本格的な捜査については、ともかく多くの工場が操業再開する2月25日以降にならないと作業員達からの聴取を含め進まないことになります。
2、 日本に対する反応は表向き冷静なものの、実際には政府及び当局(CIQ、公安等)は今回の一連の事態を深刻に受け止めています。これらの事件は日本から中国以外の世界中へも発信されているので、日本向けの食品輸出のみならず、中国からの食品輸出全体へ影響が及ぶと見ているからです。CIQ(国家質量監督検験検疫総局)は「泣く子も黙る」絶大な権限を持つ、食品の安全管理を全国的に監督する機関ですが、今回の事件に関し各地方下部機関に対し、製品、原料を含め食品輸出検査に厳戒態勢を引くよう指令しています。現在遼寧省や山東省は冷凍食品輸出は一時的に停止、また他の地域も全品検査が終わるまで輸出停止と、これまでにない動きとなっています。かつて日本向けほうれんそうの残留農薬問題で苦い経験を持つCIQは、これに懲りて既にかなり厳格な検査体制を作っており、最近では場合によってはわれわれが日本よりきめ細かな検査と見るような項目まで要求してきています。それだけにCIQとしても今回水を漏らしたことに「何故だ」と臍を噛む思いでしょうし、食品の安全に責任をもつ立場として徹底的な調査と対策を講ぜねば気もすまないだろうと思います。
3、 本年4月の胡錦涛主席の訪日があります。日本側に上手く受け入れてもらう演出上も、一連の事件が未解決のまま日本の家庭の主婦に総スカンを食らい、対中感情が悪いままとなっていることは許されす、中国にとっては得策ではないということになります。何れ3月中には何らかの説明責任を果たさねばならないでしょう。
4、 一方、本年8月の北京オリンピック開催を控え、中国当局は食品の安全性に問題があるという類のニュースには大変敏感になっています。事後に今回の事件の原因を説明していく際にもいやが上にも表現に神経を使わざるを得ない所以で、それには相応の時間と苦心が要ることになります。中国捜査当局が何度も日本に足を運び、協議を繰り返しているのもその表われではないでしょうか。因みに、こちらのマスコミでは、「日中捜査当局が協力して捜査中」程度の新華社電がごく僅かに報じられています。
 以上の通り、事件究明にはもう一寸時間がかかりそうですが、今回は中国にもしっかり説明責任を果たしてもらいたいと思います。私どもの会社でも連日「弊社製品は安全で残留農薬混入はない」という類の証明書を検査証明付きで発行する作業に追われ、一方で今後の見通しが全く不透明という状況では、先々関連業界が日中共倒れの懸念さえあります。
 私は自宅では日頃念の為、「有機野菜」といわれるものを選んで買って食べていますが、野菜一般に残留農薬の懸念があったのでは、外の飲食店や食堂でお客さん達とも安心して中華料理も食えないということになります。私ももうこちらで4年半も経ちましたので、その間にはそういう類のものも食べていたかのも知れませんが、年が年ですからあまり気にしても仕方ないことと楽観的に割り切ることにしています。  

了