2008年(平成20年)3月20日  

  上海便り−殺虫剤・農薬混入問題(U)  


 北京で開かれていた、今後5年間の国の指導部を決める全人代が18日終了しました。大会ではかつてないほど「食品の安全問題」が繰り返し叫ばれ、万全の対策を講じていくという国の強い姿勢が訴えられました。裏を返せば、「餃子事件」では良い格好を見せたものの、いろいろ問題があるということを自ら認めたことにもなりそうです。実際、一連の事件以降、食品の輸出入に関わる現場では大変なことになっています。
 これまでにない大掛かりな食品検査が続けられています。食品検査当局のCIQ(国家品質監督検査検疫局)が下部検査機関に対し「食品の安全性にかかわる異常や国の検査規則に反した事象の見落としがあった場合は関係者は皆、首」と言わんばかりの厳命を出し、そのため各地の検査機関は、@輸出入に関わる食品工場(冷凍食品工場)の操業を一斉に停止させ順次工場検査に入る一方、A食品類の輸出入も停止させ、B工場検査、在庫の全品検査が完了するまでは、操業再開、輸出入も認めない方針を打ち出しています。食品工場は泣く泣くもうかれこれ1ヶ月近く休業してCIQ検査を受けており、また食品類も倉庫に滞貨、輸出入が一種の麻痺状況となっています。検査を終えた順に再開させる一部地域もあるようですが、「少しでも危い橋は渡りたくない保身を身上とする役人根性」による検査が続いているわけですからその動きは誠に遅々たるもので、いつになったら正常な状態に戻るのか見通しも立たない現況です。一説に輸出量の多い山東省や遼寧省などは10月ぐらいまでこの停滞状態が続くとも言われています。
 ものの流れが詰まってしまい、このしわ寄せが私どもの原材料メーカーにまで直接及び、目下弊工場も開店休業状況。とんだとばっちりとなりましたが、ことは食の安全のためとあればこれもやむを得ないことと思っています。当局が輸出許可をなかなか出さない理由には「こうるさい」日本などに対する牽制・嫌がらせという意味もありますが、今回ばかりは国家とCIQの威信にかけても食の安全を担保するという意気込みの表われと見てよいかと思います。ただ、昨日(19日)漸く許可を受けた日本産米の輸入が1ヶ月近くも上海港に止め置かれたのは多分嫌がらせでしょう。
 「餃子事件」に関する2月28日の当局発表で日本の世論を完全に敵にまわしてしまい、家庭用を中心に日本向け冷凍食品の需要が急減してます。ただ、もともと日本市場で中国産冷凍食品の占める位置はかなりのものがあったので、中国側からの一時的な供給停止により、ものによっては品切れが起き始め、逆に日本側でやりくりに困っている状況もあると聞いています。
 前回、「餃子殺虫剤事件や農薬混入問題」に関し、幾分期待も込めた小生の解決見通しをお伝えした同日(2月28日)、「餃子事件」についての中国当局からの公式見解が示され、期待を早くもくつがえされるはめとなりました。(前回餃子事件では殺虫剤を農薬と一緒に混同していました。すみません。)この事件については中国当局ももう少し慎重に対応すべきだったと今だに思っていますが、オリンピックを控えかかる火の粉を早く振るい落としてしまいたいばかりに拙速に走ったのかも知れません。
 餃子事件の原因追及については、その後両国の当局が捜査を継続していることは知られる通りですが、中国側は解決に自信もあるわけでなく、いたずらに時間を稼いでいるだけで、この事件の原因究明は永遠になされないだろうというのが小生の結論です。
 その理由は下記です。
@CIQも公安(警察)も結局は現場の作業員から証拠や証言をほとんど押さえられなかった。状況から作為的な事件と見てとれますが、昨年8月、10月に現場で働いていた当の出稼ぎ作業員はもうとうの昔に他所に(郷里)に行って(帰って)しまっていた可能性が高い。出稼ぎ労働者の定着率は低く、特に春節帰省時には復帰率が50%以下の工場もある。事件発覚は春節にぶつかっていた。
A2月末、3月初めは大雪が続き、国内輸送網は混乱、特に電力エネルギー源の石炭の輸送に支障が起き始め、この雪害対策に追われていた中央政府としては、「餃子事件」への対応が結果的に二の次になってしまった。
Bこれに加え春節時期に当たっていたため、この事件の窓口であるCIQ、公安と政府首脳、外交部(外務省)との間で十分な意思疎通、連絡をとる時間の余裕がなかった。
Cこのため、CIQ、公安が、原因、真相をしっかり掴めぬまま、オリンピックなどを意識するあまり見切り発車してしまった。後日外交部との間で意見の食い違いがあったという説も伝えられている。
以上が重ねての小生推測ですが、2月28日の当局発表により中国人はほぼ10人が10人共「中国国内で起きた事件ではない」と信じていることもあり(マスコミの威力は凄い)、多分この事件は今後も平行線のまま推移して行かざるを得ないでしょう。要はチベット問題も抱える胡錦涛主席が5月日本に来た時に食品安全問題にどう言及するか否かでしょう。

 中国側の一部の不心得者による仕業や、政府当局の頑なな対応のまずさが、日本側から中国食品全体の安全性に疑いをかけられる事態に発展、買い控えも起きていますが、前記した食品検査状況も含め、大多数の生産者は日本側の検査基準にも慎重に対応しながら大変真面目に取り組んでいるということをお伝えしておきたいと思います。

 食料自給率39%の日本が今後も輸入食料に依存していかなければならないのは宿命であり、輸出国との間で如何に安定的な輸出入関係を築くかが重要な課題です。この分野でも長い目で対中国関係を育てていく必要があると思います。  

了