2008年(平成20年)3月20日  

  上海便り−変らない情報統制  


 3月15日(土)、片付けものをしてたまたま家にいて朝テレビを見ていたら前日14日にチベットラサで起きた暴動のニュースがNHKとCNNから目に飛び込んできた。死傷者もかなり出ているようだし、現地の動きはどうなのか、どこのチャンネルのニュースが詳しいのかと、内外のテレビチャンネルを回してみた。
 後で聴けばどうやらCCTVでも朝のうちに一部ニュースを流したようだが、一日中常時、ニュースを流し続けていたのは、CNNとBBCで、NHK、韓国のテレビは新華社電(文字情報)とCNNのニュースを引用紹介するに止まっていた。CNNは通信員を国内要所要所におき、網を張っているので現地の状況が比較的早くキャッチし易いのかもしれない。CNNのキャスターは、折角流そうとした肝心の現地映像も中国当局の検閲で黒画面に塗り替えられ、また現地への移動取材も拒否されたと無念さを込めて何度も視聴者に訴えていた。日本の大相撲テレビ中継を見ていた人の話によると、放送の途中でチベットのニュースが流れると途端に黒画面に変わる現象が何度も起きたそうです。この日は天気も良かったので風雨による影響は考えられませんし、明らかに電波妨害によるものでしょう。因みに15,16日にかけてのチベット報道ではBBCが中味では一番充実してました。
 さて肝心の中国国内のテレビ局。その後どこのチャンネルを回しても全くニュースはなく、チベットのチでもない。これだけ大きな事件だからそんな筈もなかろうと何度トライしても駄目。時あたかも北京では今後5年間の最高指導者を決める全人代(国会)や政治協商会議が開かれており、テレビのニュースはこればかりが満載。
 そういえば2004年の反日デモの時も、現場にいて目の前の状況を地元のテレビでは見られず、NHKの国際放送を通じで見たことを思い出しながら、あるいはと、変な予感もしてましたが、全くその通りになってしまいました。
 こんなこと、この国では今始まったことではない、と笑われそうですが、この事件についてその後数日の状況をつぶさに見ていると、以下のようにあらためてその徹底した情報統制ぶりが際立ちます。
@定時のテレビニュース番組ではこの事件に触れることは触れるが、チベット人が破壊行動をしている画面のみ放映、「17日24時までに公安に出頭した者は特別恩赦」、「現在は平穏で混乱なし」といった内容を手短に伝える程度。18日からはこれもほとんどなくなった。
A新聞も15日に、テレビと同じように暴動に加わった人達を非難する内容を報道したものの、16日以降は「目下は平穏」と伝えるのみで、チベット報道記事そのものがほとんど紙面に現われない。
Bネットで情報を手繰っている人の話しでは、チベットからの情報発信は全てブロックされ、ネットは規制、サイトへのアクセス禁止、といった状況で、チベットと外部との交信はほぼ100%情報統制され、15日以降は生の現地情報はほとんど入手不能。電話も使えたとしても盗聴されるだろうからうかつな話は出来ないとのこと。
C勿論CNNやBBC、あるいは外国政府機関も含め現地への立ち入りは禁止近づけない。
要するに、軍隊や公安による物理的な力による反政府勢力抑え込みに加え、一方で徹底した情報統制による情報の兵糧攻めで陸の孤島のような状況に追い込み、
@現地から発信される情報を遮断し、国内、外を問わず実態をつかませない。
A国内の大衆にも、事件が起きたことは伝えても、その後の状況は知らしめず、結果として無関心になるような状態におく。
という手法で鎮静化を図ろうとしているわけです。
 先の餃子事件の時も、2月28日に当局(公安、検査機関)が報道機関を集め、「中国側には原因はなかった」と大々的に発表、国内のテレビ、新聞でこれが大きく報道されたため、それを見た人達がいまだに、政府の発表だからとほぼ10人が10人共、それを信用し、その後関連報道もほとんどないため「この件はこれで一件落着」とすでに無関心をきめ込んでいるのと同じ現象に導ちこうとしています。
 今回もいわば(武)力という旧式なハードと情報統制という新しいソフトの組み合わせ手法で内外の世論を操作しているわけで、この政府による一方的なやり方には威力があるので、地元にとっては勝ち目のない分の悪い戦いになっていますが、多分これまでもこのような常套手段が繰り返されてきたことにチベットの人達の怒りがいつまでも治まらないのでしょう。
 チベットや新疆ウイグル自治区の独立指向に対しては日頃から中央政府のこのハードとソフトの対策準備もおさおさ怠りないようで、昨年新疆を旅したときも人民解放軍の軍用車両が何十台も路を塞ぎ、チベットに向かっている光景をみかけました。漢民族の現地への移住にも力を入れています。
 中東や西アジアで起きている民族紛争もたいがいは宗教に根ざした対立によるもので、融和は至難なのが現実ですが、チベットも新疆も、チベット仏教(ラマ教)とイスラム教にそれぞれ由来して自己主張しているわけで、これを力ずくで押さえ込もうとしても50年、100年単位で問題解決を先送りする、あるいは永遠に解決しない、ということになるのではないでしょうか。
 この国の指導層にとって都合良い方向に内外を誘導するこのような強引かつ巧妙な言論統制のやり方や力の政策も当面は成功していると思い込んでいるのかも知れませんが、世界が狭くなっている今日、現地の人達がもう少し自由な空気が吸えるような条件作りをしないと内外がなかなか納得するところとはならないでしょう。フランスの外相からもオリンピック開会式ボイコット発言も出ています。
 今日20日付けの中国紙は早速、「チベット問題はオリンピックに影響なし」と一面で反論してますが。  

了