2008年(平成20年)7月25日  

  上海便り−ネット社会に向けて  


 5年間の勤務を終え、猛暑の中をこのほど帰国しました。長い間、「上海便り」ご笑覧ありがとうございました。拙文を辛抱して読んで下さったことに心から御礼申し上げます。
 中国の良い面、悪い面を独断と偏見で見てきましたが、内容に対する判断は夫々の皆さんにおまかせする他ありません。それにしてもあんなに大きな国がそう簡単に理解出来るわけもなく、一寸通り過ぎただけで、「群盲象を撫でる」の譬えの通りだったかと思います。
 その間中国の沢山の人達には大変お世話とご支援を頂戴し、普通ではなかなか分からないこともいろいろ教えてもらいました。心から感謝したいと思います。それにしては悪口が一寸過ぎたきらいがなきにしも非ずですが。
 帰国して早速気づいたことがありました。インターネットの「お気に入り」の中から中国に批判的な発言の多い人のサイトがブロックされていました。中国当局が中国に不利と思われる情報の海外への流出をブロックしてしまう、ということをあらためて思い知らされました。
 いまや中国は世界最大のネット人口を擁し、これからまだまだネット社会への進化を続け、ネットへの依存が深まっていくという専門家も多く、それだけにネット情報の威力は今後、日本など以上にはるかに大きなものになっていくことも予測されます。
 カルフールの不買運動をめぐる経緯を見ても、最初の「不買の呼びかけ」から「支持の呼びかけ」に急変し、さらに最近ではまた「不買の呼びかけ」(煮え切らないフランス政府の態度への不満)に変わりつつあり、まさに猫の眼的変わりかたですが、この呼びかけが全てネットを通じてなされ、多くの若者がこれに応えている現実があります。中国政府もネット発言による影響を重視し必要に応じ、支持、不支持のコメントを加えていますが、今後ネットを舞台にしたこのようなやりとりがますます増えていくことでしょう。ただ、残念なことは、これまでのネットでの呼びかけの特徴が、愛国心を鼓舞する、排他的、排外的なものが多いことで、民主化を促すようなものはごく限られていることです。
 例えば、四川大地震を機に中央政府の姿勢にも僅かながら規制緩和への変化も垣間見られましたが、その後の地震発生地域での手抜き工事(豆腐渣工程=おから工事)や地方政府幹部の不正などに対する住民の抗議や訴えへの対応ぶりをみると旧態依然とした抑圧的な態度が目立ち、特にオリンピックを目前にした最近ではあらゆる行政面で官僚的(役人的)対応が激しさを増しています。しかしこれに対してネット上で当局に批判的な発言は殆どなく民主化に繋がる動きは見られていません。ないものねだりは百も承知してますが、ネット社会に向かいこの国をさらに開かれた社会にしていくためには、当局もネット発言者も、ネット規制や発言内容にもう少し自由な要素を加えていく要があると思います。
 きっちり几帳面が特徴な日本社会に対して、四捨五入的、差不多的なあまりこだわりのない大まかな中国社会も慣れてみるとそれはそれなりに捨て難い味がありますが、同様にこれからの中国ネット社会にももっと自由とおおらかさが是非欲しいものと思います。  

了