死神は語る

 バグダッドに住む一人の商人が、召使を市場へ買物に行かせた。しばらくすると召使が真っ青な顔を して震えながら戻り、主人に報告した。「だんな様、今しがた市場の人混みのなかである女と体がぶつ かり、振りかえってみたところその女は死神でした。女は私を見て脅かすような身ぶりをしたのです。 どうか馬を一頭お貸しください。この町から逃げだして死の運命からのがれたいのです。サマラの町ま で行けば死神に見つからずにすむでしょう。
 商人は馬を貸してやり、召使は馬の背に跨って脇腹に拍車をくれ、全速力で町から逃げ出した。
 それから間もなく、商人が市場に行くと死神が人混みのなかに立っていたので、彼は近づいて行って 話しかけた。「今朝わが家の召使と会ったとき、脅かすような身ぶりをしたのはなぜですか?」
「あれは脅かすような身ぶりではありません。」と、死神は答えた。「わたしはただ驚いただけなんで す。じつは、今夜サマラで彼と会うことになっているので、バグダッドにいる のを見てびっくりしたんですよ」
Jeffrey Archer:新潮文庫「十四の嘘と真実」収録 【死神は語る】より
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