11期生 桜井 大介
温泉旅館の宿泊費の決定要因
—ヘドニックアプローチによる実証分析—
近年、日本における観光・サービス業への関心が高まっている。発端は、小泉政権下での構造改革で、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」では、6つの経済活性化政策のなかの一つである、産業発掘戦略の中に、観光産業の活性化があげられており、国土交通省がこれの中心となって推進することが記されている。国土交通省は2003年4月より、VJC(ビジット・ジャパン・キャンペーン)と題して、グローバルな観光戦略を構築し、魅力ある地域づくりを各自治体に呼びかけ、2010年までに訪日外国人旅行者数を1,000万人とするという目標に向け、日本の観光魅力を海外に発信するとともに日本への魅力的な旅行商品の造成を行っている。
阿部政権下では、2006年12月に「観光立国推進法」が制定され(43年ぶりの観光に関する法律の改変となる)、翌年6月に、「観光立国推進基本計画」が策定された。「美しい国、日本」という、キャッチフレーズのもとで、観光産業の活性化が進められ、観光を、地域経済の活性化・雇用機会の拡大など多方面での国民経済の発展に寄与し、国民生活の安定向上に貢献し、国際相互理解を増進するものだと規定した。そして、2008年10月には、国土交通省の外局として「観光庁」が新たに設立され、21世紀の日本の中心産業へと成長させようとする政府の姿勢がうかがわれる。
国土交通省の調査によれば、2006年度の国内における観光旅行消費額は23.5兆円であり、その内訳は宿泊旅行が15.7兆円(66.6%)、日帰り旅行が4.7兆円(20.1%)、海外旅行(国内分)が1.7兆円(7.4%)、訪日外国人旅行が1.4兆円(5.8%)である。また、対前年度増加率はそれぞれ-4.2%、2.0%、2.6%、20.2%となっている。 (図表1参照)ここから、VJCの効果で訪日旅行者数の増加を受けて、訪日外国人旅行消費額が増えている一方で、国民の消費額が減少していることがわかる。しかし、注目すべきは、割合が減ったとはいえ、国民の宿泊旅行の消費額が全体の3分の2を占めているところである。グローバル展開により、訪日外国人需要を高めることも大事であるが、国内需要を疎かにしてしまっては、旅行消費額全体が減ってしまうことになりかねない。
また、日本国内における旅行・観光消費の生産波及効果は52.9兆円であり、その内訳は図表2 の通りである。観光消費は観光産業以外に幅広い経済効果をもたらすことが見て取れる。観光産業のみにしぼってみれば、消費の割合は主に、交通費・宿泊費・飲食費が多くを占めている。つまり、消費者の旅行に占める費用の多くがこれらであることから、旅行先の定まった消費者の選択は「交通手段の選択」と「宿泊先の選択」と「飲食の選択」となる。この選択によって旅行者の費用が決定すると考えてよいだろう。
ここで旅行先とあるが、国内の宿泊旅行においてどのような観光資源の需要が高いのだろうか。2005年に実施されたgooリサーチ による「観光振興に関する意識調査」において、国内旅行のニーズとして高いのは、順に、温泉旅行、自然観光、グルメ旅行であった。(図表3を参照)日本人は温泉好きだといわれているが、それがよく反映された結果である。また、国内観光地に望む条件として、群をぬいてトップであったのは「宿の料金が妥当であること」であった。消費者は質に見合った価格の提供を要求している。