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11期生 田村 健太郎

IPO前後の企業成長に関する実証分析
~IT関連産業に着目して~

 近年の新興株式市場への新規株式公開(IPO)の数は2005年をピークに減少傾向にある。2005年に110社がIPOして以来その数は年々減り続け、2008年はわずか41社にとどまっている。とりわけこの減少傾向は2000年以降に数多くIPOが行われたインターネット関連企業において顕著である。2005年には株式会社ディーエヌエーをはじめとした22社がIPOを行った一方で、2008年はわずか7社にとどまり、IPOを行った企業においても調達金額が少ない事例が多くみられる。
 この減少傾向を促す要因としては市況の悪さなどもさることながら、新興市場におけるIT関連企業に対する投資家の評価が以前よりも低くなっていることが挙げられる。2000年代にIPOを果たした一部の企業は、時に上場時に直前期利益の数百倍ともいえる時価総額をつけたが、その高い時価総額に見合った高成長を続けていたかというと疑問が残る。投資家の高い期待に応えられぬまま株価を下げ続け、株価純資産倍率(PBR)において1倍を下回る企業や、株価をIPO時の数分の一まで落としている企業も少なくない。
 しかし低迷する企業が多く存在する一方で、東証1部上場を果たした企業、毎年150%以上の売上高成長率を達成している企業などが存在していることもまた事実として観測されている。とりわけインターネット関連産業は、いわゆるITバブルと呼ばれていたような空前の好景気は終えたものの依然市場規模を増しつつある産業であり、産業の拡大とともに現行事業の拡大、関連事業への進出を図ることで事業規模の拡大や売上増は十分に見込みうる。新興市場へ上場した企業が高成長を実現できない理由が企業外部に存在する期待が薄いとなれば、高成長を果たすか低成長に終わるかを決定付ける要因を起業の内部要因にあると見るのは自然なことであると考える。
 一言に企業の内部要因といっても着目点は幅広く存在しうるし、もちろん根本的な問題は企業・事例ごとに異なっていると考えられるが、本研究ではマネジメントチームの性質に着目し、成長に貢献するマネジメントチームとは何かを明らかにすることを目指す。
 上場直後のマネジメントチームに求められる役割は、経営戦略立案にとどまらない。多くの場合創業年数も低く組織としての安定性も乏しいベンチャー企業において、マネジメントチームのメンバーには営業や開発などといった実務の陣頭指揮やファイナンス機能、社員の精神的支援、人材採用や育成など多様な役割が求められる。また当然のことながら、取締役としての意思決定においては現場実務の知識と経営能力・ノウハウ、さらには財務戦略に関する造詣の深さなどが求められる。さらにベンチャー企業を分析対象とするならば、他社での業務経験がない学生あがりの役員による既存概念にとらわれない斬新な発想や、社外取締役による当該企業から一歩引いた幅広い目線からの経営提言なども大きな価値を生みうるものと考えられる。以上のことを前提とすれば、企業の成長を決定付ける要因としてマネジメントチームの性質が挙げられることは疑う余地のないことであろう。
 しかし、マネジメントチームの特性が当該企業の成長にどのように寄与しているかに関する分析は、日本では非常に少ない。社長の人的属性と成長率の関係についての分析はみられるが、チーム全体の特性と関連付けた実証分析は行われていない。そのためマネジメントチームの特性と企業の成長率の関係を分析することは、日本のベンチャー企業におけるマネジメントチームの役割を考える上で重要な価値をもつばかりでなく、どのようなマネジメントチームを有する企業に投資すべきか、という問題に対する重要な示唆をもたらすものと考えられる。 本論文では、日本のベンチャー企業のうち、最近IPOを果たしたIT関連企業のデータを用いて、マネジメントチームの役割・年齢・在籍期間・前職などの不均質性の程度がIPO直後の売上高成長率にどのように影響するかを実証的に分析する。
 本論文の構成は以下の通りである。まず第2節で、海外で行われているトップマネジメントチームと成長率の関係についての先行研究を概観する。その上で第3節において実証分析のために利用するデータ情報、モデル、変数、仮説を提示する。このモデルおよびデータを用いて分析した結果を第4節にて提示し、結果について議論を行う。第5節では第4節の結果を受けてより考察を深めるためにいくつかの項目を変更したモデルおよび仮説を提示し、分析を行った後にその結果を受けた議論を行う。第6節では本研究における今後の課題をまとめるとともに、データ制約上分析対象に入れられなかった近年の状況についてケースを用いて概観する。

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