12期生 樋浦 潤
清涼飲料産業における同質的行動の要因
日本企業の行動特性の1つとして、設備投資や製品導入、多角化などにおける模倣行動があげられる。本稿では、このような同時的に起こる重複した行動を同質的行動と定義し、焦点を当てる。対象産業として清涼飲料産業を選んだ。その理由としては、産業の成熟化、消費者のスイッチングコストが低いこと、頻繁に新製品導入が行われていること、製品ラインが高度に重複していることがあげられる。本稿の目的は、清涼飲料産業の新製品発売データを用いて、企業はどのような企業に対して同質的行動をとるかを分析することで、同質的行動が起こるメカニズムを明らかにすることにある。
本稿では、確立された製品カテゴリーでの製品増殖、まったくの新しい製品カテゴリーでの新製品導入の2タイプの新製品発売のデータセットをロジット・モデルを用いて分析を行った。本稿で検証した仮説は、「企業の新製品導入確率は①他の企業②シェアが近い企業③出身産業が同じ企業④一定以上のシェアを持つ企業が直前に同カテゴリーにおいて新製品を導入するほど高まる」の4つである。
分析の結果、製品増殖における②シェアが近い企業および③出身産業が同じ企業、新製品導入における①他の企業②シェアが近い企業に対して同質的行動が検証された一方で、製品増殖分析における①他の企業に対しては仮説と逆の行動が検証され、他の仮説は支持されなかった。この結果は、参入障壁という観点から解釈できる。すなわち、同質的行動が検証された企業間においては、後発企業が新製品を導入するに当たって参入障壁となる、先発企業に対する絶対的費用格差やサンク・コストが小さいと考えられる。そのため、先発企業が市場に製品を投入して超過利潤を得ているとき、その超過利潤を抑えて自らの競争的地位を保つために、先発企業に追随して市場に製品を投入することで現状にコミットすることを選択するといえる。