12期生 野崎 秀和
ファッションブランド買収の株価への影響
この研究は、1990年以降ファッション業界で相次いで起きた、ブランドの買収において、どのような買収が投資者から評価されているのかを、株価データを用い、累積異常収益率の有意性を検定するイベントスタディによって分析するものである。
まず始めに、①「ラグジュアリーブランドの買収よりもアパレルブランドの買収のほうが市場の反応は強い」、②「コングロマリットによる買収への反応は他よりも弱い」、③「ラグジュアリーの買収においてアパレル企業による買収よりも、ラグジュアリー企業による買収のほうが、強い反応が現れる」という、3つの仮説を立て、分析を行った。
そして、以下のような結果を得た。まず、ブランド買収においてラグジュアリーブランドの買収のほうがアパレルブランドの買収に比べ有意な反応を示した。ラグジュアリーブランドのもつブランド力が株主にとっても大きな魅力であることが示された。また、コングロマリットとそれ以外の企業のラグジュアリーブランドの買収における比較では、非コングロマリットによる買収は有意な反応はなく、コングロマリットによる買収は判定不可、という結果となった。ファッション分野での非コングロマリットのラグジュアリーブランドの買収は、他のラグジュアリー製品のカテゴリーに属するブランドの買収にくらべ、株価は反応し難い、ということが示された。最後の仮説③に関する分析では、仮説と逆の結果が示された。ラグジュアリー企業によるラグジュアリーブランドの買収で株価の反応は無かったということは、買収企業が保有するブランドと被買収ブランドとの相性や、その時の流行など、ファッション独特の不確定要素が多く、投資家が買収を単純に評価することができない、ということが考えられる。
以上のことから、ラグジュアリーブランドの買収は投資家から評価されているものの、どのようなタイプのラグジュアリーブランドの買収が、最も投資家から評価されているかは、明らかにすることができなかった。
この研究を通じて、ブランドを買収する企業の属性・組織形態などにより、買収後の株価の反応が様々であることを学んだ。今後、どのような買収が起き、それがどう評価されるのかに注目していきたい。