12期生 澤田 隆
産業集積が産業の生産性に影響を与えるプロセスの検証
~都道府県データを用いた実証分析~
本研究では地域内の企業密度で表される産業集積が地域内の産業の生産性に対して影響を与える経路を検証した。検証の対象とした経路は“モノ”の取引と“ヒト”の移動であり、具体的にはそれぞれ産業集積地域で道路交通インフラが整備されることによって輸送コストが低減され、また事業所間が結ばれることによって中間財バラエティが増加し、生産性に影響を与えるという経路と、人材が産業集積地域内で事業所間を移動することにより、地域で適材適所化が実現され、また知識のスピルオーバー効果により生産性に影響を与えるという経路を検証する。サンプル数が少ない石油製品・石炭製品製造業を除く産業中分類の23産業を対象に、2003年から2007年の5年間の都道府県のクロスセクション・データを用いて最小二乗法により分析を行う。仮説は以下の通りである。産業集積の地域の産業の生産性に与える正の効果を道路交通インフラ、あるいは人材の地域内移動が高める。従って、産業集積は上述の経路を通じて地域の産業の生産性に影響を与えている可能性がある。分析の手順は以下の通りである。まず産業ごとに一般道路面積および人材の地域内移動者数の相対値の中央値を計測し、一般道路面積の相対値および人材の地域内移動者数の相対値が中央値よりも大きいサンプルと小さいサンプルに分ける。被説明変数をTFPとし、説明変数を産業集積指数としたモデルを中央値よりも値が大きいサンプルと小さいサンプルで別々に推定し、2つのサンプルの産業集積指数の係数の推定結果を比較することにより仮説を検証する。分析の結果、産業集積のTFPに対する正の効果を地域の道路交通インフラ、あるいは人材の地域内移動が高めているという結果が得られた産業は全産業の半分に満たなかった。また仮説とは逆の結果、つまり産業集積の地域の産業の生産性に与える正の効果を道路交通インフラ、あるいは人材の地域内移動が低めるという結果も確認された。従って、本研究の分析では、幾つかの産業においては産業集積の生産性に影響を与える経路を確認することができなかった。仮説通りの結果が得られなかった産業においては、他の経路で地域の産業の生産性に対して影響を与えていると考えられる。