12期生 鈴木 沙由里
CSR活動と情報開示が企業価値に与える影響
グローバリゼーションによる国際競争の激化、情報技術の発達による消費者・顧客の企業活動に対する視線はますます厳しさを増している。それに伴って、多国籍企業や大企業の間ではCorporate Social Responsibility(以下CSR)について積極的な行動をとることが必要不可欠であるとの認識が広がっている。しかし、CSRの定義と具体的な範囲については国際的に合意された統一的な見解がないにも関わらず、CSR活動と企業パフォーマンスとの関係のリンケージに関する理論が十分でないまま、両者の関係性についての分析が欧米を中心に行われてきた。
本研究の目的は、CSR活動と企業価値に与える影響およびCSR活動と情報開示の相乗効果が企業価値に与える影響について分析を行うことである。特徴としては、①化学産業を対象とし、CSR活動の中でも環境活動と社会貢献活動に焦点をあてていること②CSR活動と企業価値の関係に情報開示という視点を取り入れたこと③日本企業を対象として分析を行っていることがあげられる。
実証方法としては、「環境活動・社会貢献活動に積極的な企業の企業価値は高い」、「環境活動・社会貢献活動に関する情報開示に積極的な企業ほど、企業価値への影響が強くなる」という仮説を導き、2009年化学産業74社を対象に分析を行った。
実証結果は以下のとおりである。第一に、環境活動に関しては、各環境活動と企業価値の間に相関関係は見出せなかった。また、環境活動の情報開示に関しては、英語での情報開示が行われると環境活動が企業価値に与える影響が強くなることが示された。これより、国内株主は環境活動よりも財務諸表や経営方針を重視すると考えられる。ただし、国外の株主は環境活動を考慮していることが示唆される。第二に、社会貢献活動に関しては、社会貢献活動の支出額と企業価値の間に正の相関関係が認められた。また、社会貢献活動の情報開示に関しては、社会貢献活動が企業価値に与える効果を情報開示が強めるといった結果は得られなかった。社会貢献活動支出について、企業は社会貢献活動を行うだけの経営の健全性と社会貢献による企業ブランド価値の向上を支出額で市場にアピールすることが出来る。
従来の欧米企業を対象とした研究では、CSR活動と企業価値の間に正の相関関係を示すものが多かった。本研究は株式市場での企業価値を用いたこと、日本企業を対象にしていること、化学産業を対象にしていること、などから通説とは異なった結果が得られた。しかし、CSR活動とその情報開示が企業価値にプラスの影響を与える可能性は高い。