13期生 藤城 拓人
東京都スーパーマーケット産業における市場支配力と食品価格設定
ー価格調査に基づく実証分析ー
本稿では、東京都食品スーパーマーケット産業における、企業の市場シェアと食料品価格の相関関係を計量的に分析した。理論的背景として市場支配力仮説がある。この仮説は、高い市場集中度によって寡占企業は市場支配力を獲得し、超過利潤を得るというものである。米国ヴァーモント州のスーパーマーケットを対象にして同様の分析を行ったCotterill(1986)では、この仮説の通り市場シェアと価格に正の相関が示された。本稿は、価格競争の激しい日本の食品スーパーマーケット産業で、高い市場シェアを有する企業が価格を高く設定するのか低く設定するのかを、東京都を対象に検証した。
本稿の特徴でもある店頭商品価格データを得るために、岡室ゼミ13期生、14期生全員が実際に店へ行き価格調査を行った。得られた価格データを被説明変数におき、最小二乗法を用いて次のモデルを推定した。価格指数=f(市場シェア、平均売り場面積、平均売り場面積の二乗項、パート比率、全国店舗数、高級スーパーダミー)。
分析の結果、パート比率、全国店舗数で負の相関、高級スーパーダミーについて価格指数と正の相関が見られたが、市場シェアに強い相関関係は示されなかった。これは先行研究と異なり、市場支配力が当該市場において存在しない、あるいは行使されないことを示唆する。その理由として、支配的大企業の不在、熾烈な価格競争、消費者の低価格志向が考えられる。政策的インプリケーションとしては、当該産業への不用意な政策介入はかえって競争を阻害する可能性があると言える。一方で、先行研究にも言えることだが、価格だけをみて市場支配力を検証するには限界がある。競争の結果、各スーパーは低価格を設定するが、力のあるスーパーは効率を高めてコストを下げ利益を上げていると考えられる。