13期生 井手 崇仁
企業の本社移転要因、及び移転後のパフォーマンスに関する実証分析
〜成長段階企業を対象にして〜
本論文では、従来日本では研究が進んでいなかった企業の本社移転に焦点を当て、成長段階にある企業の内、製造業と情報通信業を対象とし、どのような企業特性、地域特性を持つ企業が移転する傾向にあるのかを、プロビットモデルを用いて検証した「移転要因分析」、本社を移転させた企業と移転させていない企業の移転期間後の業績の変化を、回帰分析を用いたDifference-In-Differencesの方法で分析した「移転効果分析」をそれぞれ行い、企業の本社移転をその要因と効果の両面から検証している。
移転要因分析では、企業特性の中で売上高規模が小さいこと、年齢が若いことが移転する要因となっており、製造業より情報通信業のほうがより移転するという結果となった。地域特性の中では、同業事業所の集積は移転確率を下げることに寄与することが示されたが、業種に関係なく本社が集積している地域に立地していることは企業の移転確率を高めるという結果が示された。この点に関し、移転した企業のみを対象に、どのような地域を移転先に選ぶのかを検証する「移転先選択分析」を行ったところ、本社が集積している地域をより移転先として企業が選んでいることが示され、企業が本社の集積を重要視していることが明らかとなった。
一方移転効果分析では、企業の業績を向上させる目的で行われる効率型移転をした企業と移転していない企業との業績の間に統計的に有意な差は検証されず、移転が企業の業績を向上させていることは示されなかった。しかし、企業の立地場所が業績に影響を与えているのかを検証する「立地効果分析」を行ったところ、本社の立地場所として適している東京や大阪の中心部に立地している企業の方が、そうでない地域に立地している企業より業績が伸びていることが示され、立地場所が企業の業績に影響を及ぼしていることが明らかとなった。