13期生 倉田 圭輔
特許政策評価
ー出願公開制度と多項制の実証分析ー
日本の特許法第1条には,「この法律は,発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もつて産業の発達に寄与することを目的とする」とある.これを具体的に言えば,特許制度の目的は,特許出願された技術情報を公開することによる「技術の普及」と,発明者に一定期間の排他的独占権を与えることによる「発明の誘因確保」を通じて「産業の発達に寄与すること」ということになる.
本稿は「技術の普及」に貢献し,企業の研究開発活動をより効率的にすると考えられる制度変更として1971年より導入された「出願公開制度」,「発明の誘因確保」に貢献すると考えられる制度変更として1976年に導入された「多項制」,1988年に導入された「改善多項制」に着目し,これら制度が意図した目的を達成できているかどうか,政策評価を試みた.分析には政策評価に頻繁に用いられるDifference in differencesという手法を用い,各制度変更の前後3年間の企業の財務データによるパネルデータ分析を行った.
出願公開制度に関する分析により,出願公開制度が研究開発効率性を高めるという明確な結論は得られなかった.しかし,制度変更の大きさは正の値を示しており,出願公開制度導入自体が大幅な研究開発効率改善にはつながらないものの,わずかではあるが効率性に寄与する可能性は存在した.
一方,多項制・改善多項制に関する分析では,多項制に関しては「発明の誘因確保」に貢献している結果が出たものの,改善多項制ではそのような結果は得られなかった.本稿ではこの結果を,多項制自体は「発明の誘因確保」という目的に貢献する効果があるものの,日本はそれを1976年,1988年にいわば「2段階」に分けて導入したために,改善多項制導入の影響が現れなかったと結論づけた.
本稿のこの結論は,日本の特許政策を振り返る上で,また国際的に見てまだ特許制度が不完全な国の政策を考える上で,重要な示唆を与えるものであると考えられる.