13期生 本木 新
合併が市場構造と市場成果に与える影響
-銀行業再編の計量分析-
近年、「産業再編」という言葉が頻繁に報じられている。産業再編と一口に言ってもその実態は様々であるが、その本質は、何らかの形で複数の企業が結び付き、市場に存在するプレーヤーが実質的に減少するということである。競争政策の理論から言えば、企業間の競争的な状態を保つためには、多くの企業が存在し互いに競い合う状況が望ましい。
本稿においては、過去20年の間に大規模な再編を経験した日本の銀行産業を対象に、産業再編の一形態としての合併が市場構造及び市場成果に与える影響を分析した結果を示す。銀行が供給する主要な財は預金サービスと貸出サービスであるが、まず預金市場においては、合併前後の市場集中度の変化が大きいほど、その後の市場集中度が上昇しやすいことが示された。また、合併直後の市場集中度の水準が高いほど、その後の市場集中度が上昇しにくいことも示された。さらに、預金市場においては、産業再編を目的とするような大型合併は最終的に市場効率性を下げる傾向があることが示唆された。一方で、貸出市場においては、合併前後の市場集中度の変化がその後の市場構造や市場効率性に与える影響は確認されなかった。
「産業再編」として報道されるような大企業同士の合併はより強い競争制限的効果を持つと考えられ、本稿の分析の結果からも、自由な競争が行われている市場における産業再編ほどそのような傾向が強いことが示唆された。また、合併のインパクトが大きい大企業同士の合併であるほど、再編によって市場効率性を改善することは難しいことも示唆された。今後、企業の競争がよりグロ ーバル化する中で企業結合による産業再編がますます注目を集めると思われるが、競争当局は競争政策の基本に則り、企業結合の持つ反競争的効果を慎重に見極めて政策を行う必要があると考えられる。