14期生 松下 喜洋
産業集積と複雑ICTが地方銀行の生産性に与える影響
-地方銀行のパネルデータを用いた実証分析-
どのような外部環境が整っていれば、当該地域に属する地方銀行は生産性を高めることができるのであろうか。
生産技術の革新と地域特性の関連性はこれまで大いに注目されてきたトピックである。特に技術革新と製造業の産業集積(産業クラスター)との関連性を分析した研究が多く見られる。両者の関連性を説明するのが集積の経済性であり、集積の経済性は都市化の経済性・特化の経済性・地域内競争の3つに分類することができる。集積の経済性は地方銀行の生産性にどのような影響を与えているのだろうか。
一方、近年のICT(情報通信技術)の進展により、従来議論されてきた集積の経済性に変化が生じる可能性が指摘されている。企業立地に対しICTが与える影響としては主に2つの学説がある。一つはeメールの使用やウェブの閲覧といったICTの単純利用がface-to-faceのコミュニケーションと代替的であり、企業の立地選択における距離の重要性を低下させているというものである。もうひとつは、電子取引や組織変革のコンサルティング・サポートといったICTの複雑利用がface-to-faceのコミュニケーションに対して補完的な役割をすることによって、交流の中心として都市が重要性を増すというものである。
どのようなICT利用が、どのような影響を集積の経済性に与えているのだろうか。本研究の目的は、「地方銀行において集積の経済性は存在するのか。複雑利用のICT投資をする地方銀行が生産性を高められる外部環境は何か。ICTと地方銀行の集積の経済性はどのようの関連しているのか。」を明らかにすることである。
本研究の特徴は3つある。一つ目は、分析対象を1978年から1984年の日本の地方銀行とした点である。二つ目は、複雑利用のICT投資に分析対象を絞るとともに、集積の経済性が地方銀行に与える影響とどのように関連しているかを分析した点である。三つ目は、パネルデータを用いた分析を行っている点である。
分析により得られた結論は以下の3点である。
1点目は、「地方銀行の上位行の合計シェアが高いほど、銀行内・銀行間のオンラインを含む新たなシステムの開発が行われ、地方銀行の生産性が上昇することが示唆される」。
2点目は、「地方銀行の複雑利用のICTへの投資は、face-to-faceのICTサポートを受けやすい地域ほど地方銀行の生産性の向上につながるといえる」。
3点目は、「集積の経済性と複雑ICTには統計的に有意な結果は得られなかった」。しかし、この結果は集積の経済性と複雑ICTが無関係であることを示しているわけではない。本研究では地方銀行における集積の経済性を分析したのであって、製造業における集積の経済性に対して複雑ICTが与える影響は分析できなかった。分析対象を製造業にすれば、結果は変わったかもしれない。