15期生 井藤 将輝
酒類小売規制の緩和による酒店の撤退要因分析
-多摩地域の店舗を用いた実証分析-
近年酒店を取り巻く状況が一変している。主たる原因は規制緩和によって、コンビニやスーパーで酒類の販売が可能になったことである。厳しい環境下で撤退する酒店が相次ぐ中、生き長らえる酒店もある。両者の違いはどこにあるのだろうか。
本研究ではこうした問題意識に基づき、多摩地域の酒店を対象に、1998年以降の酒類小売規制の緩和による撤退要因について分析を行った。本研究の最大の貢献は、職業別電話帳(タウンページ)と酒類販売業免許者名簿を利用することで、既存の酒店や参入店舗の詳細な立地を勘案して分析したことにある。また規制緩和の影響を明確にするため、2003年から最長3年間実施された緊急調整法に着目した点も特徴である。
プロビット分析による推定結果は以下の通りである。撤退店舗の全体的な傾向を推定したモデル(ⅰ) では、駅前商店街や幹線道路沿いに立地する店舗は撤退しにくく、逆にチェーン店は撤退しやすいことが明らかになった。また、緊急調整区域は非緊急調整区域に比べ、撤退率が低いことも示された。しかし一方で、自店の商圏内に新規参入した酒販店数や、既存の酒店数については、有意な結果が得られなかった。また、多くの先行研究で実証がなされてきた商圏人口、店舗年齢、店舗規模についても、撤退率と明確な関係性を見出すことはできなかった。また、緊急調整区域のみと非緊急調整区域のみでそれぞれ推定したモデル(ⅱ)、 (ⅲ) では、撤退率に影響を与える変数に違いが見られた。緊急調整区域では、チェーン店は個人店に比べ、撤退しやすいことが示されている。一方で、非緊急調整区域では、駅前商店街に立地する酒店が撤退しにくいという結果が得られた。なお、緊急調整法の政策効果については、分析期間中は撤退率に有意な効果を確認できたが、現在に渡る生存率を考慮すると、同法の効果は議論の余地が残る結果となった。