15期生 松澤 哲
戦前台湾の製糖業のカルテルに関する簡単な経済分析
本稿は、戦前日本の台湾糖業でのカルテル組織の存在理由について研究した。植民地支配下の台湾では、製糖業が重要な産業と政府に認識されており、「戦前最大のカルテル組織」ともよばれる糖業連合会が存在していた。糖業連合会は、1910年に発足して以降、1945年の終戦まで解散することはなく、非常に安定していたカルテル組織であることがわかっている。本論文は、Abreu (1983) により提示された繰り返しゲームの寡占モデルを拡張することで、当該カルテル組織の存在意義と安定性について理論的見地から分析している。本論文は、外生的かつ戦略的なふるまいをしないアウトサイダーの存在が、個別企業のカルテル逸脱のインセンティブを小さくしており、結果としてカルテルの安定化に貢献したことを示唆している。また台湾製糖業において、いくつかの小規模の企業にたいするゾンビ融資が存在していたことを本論文は指摘しており、これもカルテルの安定化に貢献していたことが考えられる。