15期生 夏井 昂史
ライセンス取引における追随行動の実証分析
-医薬品産業を対象として-
本研究では、日本企業の行動特性として挙げられる企業間の模倣・追随行動に着目し、企業の意思決定にライバル企業の行動がどのような影響を与えるかについて、医薬品産業を対象として分析を行った。近年の医薬品産業の傾向として、新薬創出件数の低迷、特定の薬効領域に特化した研究開発活動、提携やライセンス取引を通じた積極的な外部資源活用が挙げられる。こうした背景の下で、製薬企業はいかに競合他社よりも早く新薬を上市するかという厳しい研究開発競争にさらされていることから、競争相手の開発パイプラインの動向には非常に敏感である。そこで本研究では、ライセンス取引を通じた新薬候補の導入に焦点を当て、この戦略に企業間の模倣・追随行動が存在するのではないかと考えた。企業のライセンス取引を薬効分類別に分析し、競争的相互作用の結果として模倣・追随行動が起こるという仮説を検証した。ロジット・モデル及びポワソン回帰モデルを用いて、製薬企業27社、6種の薬効領域を対象として分析を行った。
その結果、ある薬効領域において他社が技術導入を行うと自社もその行動に追随すること、とりわけ類似した研究開発能力を有する企業をライバルと認識しその行動に追随することが確認された。また、企業はライバル企業のライセンス取引量に応じて取引頻度を増やす傾向にあることが示された。このことから、製薬企業はライバル企業によるライセンス取引を通じた新薬候補の導入を、開発パイプライン強化につながることから脅威と認識し、後れを取らないように同様の行動をとる傾向にある、といえる。