16期生 登 貴紀
役員へのインセンティブと取締役会の構造が雇用調整に与える影響についての実証分析
企業はリストラや新卒採用の抑制などの雇用削減、また採用数の増加など雇用調整に関する様々な戦略をとるが、果たして雇用調整の意思決定に影響を与える要因は何であるのか。
過去には企業を規律付ける仕組みであるコーポレートガバナンスにその要因を求めた研究が数多くなされている。本稿でもコーポレートガバナンスに着目し、役員へのインセンティブと取締役会の構造が雇用調整に与える影響について実証分析を行った。本稿の意義は雇用調整とコーポレートガバナンスの関係を分析している研究の中で、先行研究で成されていない領域に踏み込んだところにある。
対象企業は東証一部上場かつ東証分類で情報通信業に属する116社のうちデータの欠損がない100社であり、2004年から2013年までの10年間分のパネルデータを用いた。モデルは先行研究に倣い、部分調整モデルを採用している。結果と結果から得られる示唆は以下の通りである。
取締役会の構造に関しては、執行役員制度を導入している企業で雇用調整が速まることが明らかとなった。役員へのインセンティブに関しては、ストックオプション導入企業と役員持ち株比率が高い企業ほど、雇用調整が速まることが明らかとなった。特に後者の結果から、役員に自社株あるいは自社株を得る権利を付与することが、雇用調整を速めるインセンティブとして機能していることがわかった。本研究の企業経営に対する示唆は、情報通信業に属する企業が雇用調整を速めたい場合は、経営陣に対するインセンティブの付与や執行役員の導入を考えるべきだということである。
以上がこの研究の結果と示唆であるが、限界として考えられるのは、産業が限定されていて一般化した答えを得られていないというところにあるだろう。別業種のサンプルや未上場企業のサンプルを加え、より説得力のある研究にしていくのが今後の課題である。