16期生 岡田 俊樹
純粋持株会社制の採用と企業再編がパフォーマンスに与える影響
本研究では、1997年の解禁以来増加を続けている純粋持株会社という会社形態について、その採用の方法と採用後の行動がどのようにパフォーマンスに影響を及ぼしているのかを分析した。
本研究で立てた仮説は以下の三点である。第一に「組織再編が活発な業種に属する純粋持株会社は、そうでない純粋持株会社よりもパフォーマンスが向上する」という仮説、第二に「純粋持株会社制への移行時に事業譲渡や会社分割を用いた場合は、株式移転や株式交換を用いた場合よりもパフォーマンスが向上する」という仮説、第三に「純粋持株会社制採用企業は、非採用企業よりも頻繁に企業再編を実施しており、その結果としてパフォーマンスが相対的に向上している」という仮説である。
これらの仮説を検証するために二つの分析を行った。一つ目は、純粋持株会社移行年とその三年後のROEの変化率を被説明変数とした重回帰分析である。その結果、移行時に事業譲渡や会社分割を選択する企業は、株式移転や株式交換を選択する企業よりもパフォーマンスが向上していることがわかった。これは、事業譲渡や会社分割といった方式が、戦略部門である親会社が純粋持株会社のメリットを早い段階で活かせるようなシステムであることが原因だと考えられる。移行後の行動については、純粋持株会社移行後三年以内にM&Aを行った企業はそうでない企業よりもパフォーマンスの向上が有意に低いことがわかった。その理由として、純粋持株会社の採用によって経営統合に伴う摩擦が軽減される可能性は否めないが、純粋持株会社下での緩やかな結合が、シナジー効果などのM&Aに備わるメリットもまた減殺したことが考えられる。
二つ目の分析として、サンプル企業のペア企業を一定の基準に基づいて選別し、純粋持株会社移行後3年間の企業再編の平均回数と、純粋持株会社移行3年後のROEの変化率の平均を比較した。結果としては、企業再編の平均回数は純粋持株会社のほうが有意に高かったが、それはROEの変化には有意な影響を与えてはいないというものだった。この結果も、分析1と同様に、純粋持株会社のデメリットの影響がより強く出たことによると考えられる。純粋持株会社は万能な組織形態ではなく、グループ全体を統括する強い求心力や、グループ全体を一つにまとめあげるような明確な成長戦略が伴って初めて、そのメリットを十分に享受できるのだと考えられる。