17期生 松岡 采子
コーポレート・ブランドが投資家の意思決定にもたらす影響
—製品リコールの事例をもとに—
近年、ブランドの重要性はマーケティングの範疇を越えて広く謳われているが、定量的な分析は消費者を対象にしたマーケティングの文脈に留まる研究が多く、投資家や従業員などのその他のステークホルダーを対象とした研究はあまり行われてこなかった。そこで本研究では対投資家との関係性に着目し、家電製品分野の製品リコール165件を対象に、イベントスタディと最小二乗法を用いて企業のブランド戦略とコーポレート・ブランドが製品リコール時に投資家の意思決定にどのような影響を与えるかについて検証した。
イベントスタディでは、消費者安全法35条の重大報告に基づく製品リコールは企業の株価に有意に負の影響を及ぼすことから、研究の前提条件として、一定の条件を持って行われた製品リコールは日本の株式市場に置いて負の影響を与えることが検証された。しかし、イベントスタディを用いた結果からは、仮説が有意に検証されなかった。
一方で、最小二乗法による分析からは、企業がブランドの傘戦略を用いている場合、製品リコールが該当製品を越えて別の製品群へ負のスピルオーバーを起こすことへの懸念から、製品リコールに際して株価の異常収益率に負の影響を与えることが示された。また、一定期間内に同一製品カテゴリー内で製品リコールを複数回起こすと株価の異常収益率に負に影響を与えることがわかった。しかし、企業のコーポレート・ブランド力、ブランド・パーソナリティー(信頼性)、ブランド連想(品質・技術水準の高さ)を強く有している場合、ブランドの免疫効果を通じて、同一製品カテゴリー内で複数回製品リコールを行うことによる、負の影響を緩和させる効果があることが検証された。
本研究の結果より、財務の安定性という観点から、企業はブランド・ポートフォリオを構築する際に、マーケティング活動におけるメリットだけではなく、製品リコールなどから派生する負のスピルオーバーも考慮した意思決定を行なうべきであると共に、投資家とのブランド・リレーションを強固にしていくことは、製品リコールなどの「ブランドの失敗」による財務面へのダメージ緩和の効果が期待できるため、消費者以外のステークホルダーに対してブランドを介したコミュニケーションを行うことの重要性が示された。