template

Articles

17期生 中山 宗一郎

政府主導の設備投資は企業の生産性を上昇させたのか?
―1950年代の日本の鉄鋼業を対象として―

 経済産業省製造産業局が公表している産業構造審議会製造産業分科会の配布資料によれば、2013 年度の日本の貿易収支は過去最大の貿易赤字を記録した。主な原因として資料には電気機器産業(エレクトロニクス産業)等の製造業の輸出力の低下が挙げられている。また、日本のバイオテクノロジー産業の現状を分析した中村他(2002)によると、全世界的にバイオテクノロジー分野の研究開発が加速度的に進むなか、日本のバイオテクノロジー産業は学術成果に関して他国と比較してインパクトのある研究成果を出しておらず、特許に関しても日本の他の分野と比較して競争力がないことがわかった。本研究では、過去の歴史的事例を分析することにより、特に現在のバイオテクノロジー産業のような相対的に国際競争力が低い産業を育成するにはどのような手法を取ればよいかを示したいと考えている。
 本稿は 1950 年代前半に日本の鉄鋼業において政府主導で実施された大規模設備投資計画「第一次合理化計画」を分析対象とし、これを定量的に評価することを目的としている。1951 年度から 1960 年度までに圧延製品を生産した鉄鋼業の工場別データを用いて、Difference in differences 分析により労働生産性への効果を推定した。
 推定の結果、当時川崎製鉄を中心に建設が始まった鉄鋼一貫製鉄所が生産性に正の影響を与えた一方で、計画全体でみると政府融資が鉄鋼企業の生産性を上昇させたとは必ずしもいえないことがわかった。本研究により、第一次合理化計画において政府が予め融資先の企業の情報を十分に入手し、融資を行うかどうかを選択できていれば合理化計画の効果はより大きなものになっていたのではないかということが示唆された。

Back