17期生 大石 真帆
全国学力・学習状況調査を用いた都道府県間学力格差の要因分析
近年、ゆとり教育を主な原因とする児童生徒の学力低下が注目されている。それを受けて、義務教育の水準向上や児童生徒の学習状況の把握・分析を目的として、国は約40年ぶりに「全国学力・学習状況調査」を再開した。
その調査結果を見ると、各都道府県の順位に大きな変動は見られず、特に上位県・下位県の固定化は顕著である。このような問題が存在しているが、日本では都道府県間の学力格差に着目して定量的な検証を行った研究は数少ない。さらに教育社会学を中心に行われてきた研究の多くは、学力と関係する要因として両親の学歴や世帯所得、家庭環境などに注目しており、教育財政に言及したものはほとんど存在しない。本稿ではこの点に着目して、地域間における学力格差の決定要因を把握することで、格差の是正を図るために、学校や自治体レベルで動かすことのできる変数が学力とどのような関係にあるかを明らかにすることを目的として分析を行った。なお、本分析では小学校の同調査結果ならびに教育生産関数を用いた。
分析の結果、複数の学校属性の変数について学力との間に有意な関係がみられ、補充・発展的な内容を扱い、指導内容を充実させることは、基礎力の養成に対してより強い効果を持つことが示された。一方、応用力の養成のためには、学校教育の質を高めると同時に、学校と家庭が連携して児童が主体的に学習する条件を整え、きめ細かく指導していく必要があることが分かった。また、本分析では少人数教育の効果を認めることができなかったが、少人数指導に関する実証研究が数多く蓄積されている欧米においてもその効果は必ずしも一様ではないとされており、その解釈には十分慎重でなければならない。
本研究の結果をさらに頑健なものとし、学力格差の定量的な評価を行うためには、良質なデータの蓄積と公開が今後の日本の学力研究の最たる課題であると考える。