17期生 大高 馨
市町村合併のインセンティブと効果
本論文では,1999 年の合併特例法改正以降に起こった「平成の大合併」について,財政効率性への影響とその要因を分析する.
まず,市町村財政の効率性への影響を推定する.市町村合併の効果についての先行研究は宮崎(2006),内閣府政策統括官(2009),広田・湯之上(2011)等数多く行われているが,いくつかの問題点を含んでいる.例えばサンプル期間が短く「平成の大合併」時期のトレンドの影響を受けている可能性があることや自己選択バイアスの可能性を排除できていないことが挙げられる.従ってそれらを解消しつつも先行文献の形式に沿って Difference-In-Differences 分析と傾向スコアマッチング分析によって検証する.推定の結果,両分析において合併は全体的に非効率的影響を与えることがわかった.
次に,規模の経済性という理論的予測とは反対に非効率性が発生することに対し,その原因が各自治体に合併を促した合併推進政策,特に合併特例債に起因する逆選択とモラルハザード,3 万市特例によるインセンティブの歪み,の 3 つにあると仮説を立て確率的費用フロンティア分析によって検証した.その結果,合併時期と旧自治体数が非効率的な影響を与えていることがわかった.前者については時期が早いほど事例が蓄積されていないために特例債を余分に借り,利用してしまうことが原因と考えられ,この発見はこれまでの先行研究では報告されていない.後者については仮説が支持された.最後に,政策としての合併特例債は純粋に利用者の合併運営を効率的にすることがわかりモラルハザード仮説は棄却された.他方,逆選択の代替変数も仮説を支持していたため,観測できないが何らかの非効率性(あるいは高いデフォルトリスク)を持つ自治体に合併を促すこともわかった.但し,これらの効果は相殺されあうが前者のほうが係数の絶対値が大きいため正味の効果として合併特例債は財政効率性を高めたと考えられる.