18期生 村瀬 希奈
クラシック音楽CDにおける他者の評価が売り上げ枚数に与える影響
-専門家の評価とオンラインレビューによる実証分析-
クラシック音楽のCDは経験財である。パソコンのように、購入する前に消 費者がスペックなどの特徴を確かめられる探索財と異なり、経験財は消費によ ってのみ、その特徴が確かめられる。つまり、消費者は、音楽CDを聞いて初め てそのCDが良いものなのか悪いものなのか判断することが出来る。したがっ て、その財の製造者や発売者と消費者の間には情報の非対称性が存在する。こ の情報の非対称性の解消のために重要なのが事前情報である。クラシック音楽 のCDでは、広告や指揮者、演奏者などの情報が挙げられる。その他に、専門家 の評価や口コミといった他者の評価も事前情報として情報の非対称性の解消に 役立つと考えられる。本研究は、専門家の評価やオンラインレビューといった 他者の評価を消費者が事前情報として利用していることを示し、これら他者の 評価がCDの売り上げ枚数に与える影響を実証分析によって明らかにすること を目的としている。 本研究では、クラシック音楽のCDを対象に、売り上げの代理変数として通販 サイトAmazon.comのクラシック音楽カテゴリーにおける売り上げのランキン グを被説明変数に用いて、売り上げに対する他者の評価の影響を最小二乗法で 分析した。Amazon.comでは、カテゴリーごとに上位100位がランキングとして 紹介され、1時間ごとに更新される。Amazonは、このランキングの仕組みを正 式には発表していないが、過去24時間の購入人数をもとに1時間ごとにランキ ング化しているようである。 分析の結果、消費者によるオンラインレビューの数や評価は、クラシック音 楽のCDの売り上げに影響を与えていなかった。また、専門家の評価は、むしろ CDの売り上げを下げる可能性が示された。クラシック音楽のCDの売り上げに 良い影響を与えた因子は、Amazon.comの売り上げのランキングの集計期間よ り前に、そのCDが売れ筋ランキング上位100位へ何日入ったかを表すランクイ ン日数のみであり、過去により長い期間、よく売れているCDほど、その後も 良く売れるということが示された。ランクイン日数は、より多くの人がそのCD を購入しているということを示し、人々がより話題性のある商品を好むことが 示された。話題性が高いということ自体が消費者の効用をあげると考えられる ため、話題性の高さも情報の非対称性の解消につながる可能性があると考えら れた。