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19期生 金谷 尚樹

主要銀行を変更する未上場企業の特徴と地域金融機関の行方

 本稿ではリーマンショック直後に主要銀行を変更した未上場企業の特徴につ いて分析を行うと同時に、地域金融機関の将来について考察した。近年になり我 が国の金融制度・金融構造は大きな変化を遂げている。その中で、企業と銀行の 関係性は様々に変化している。企業のほとんどが複数の銀行と取引しており、そ の中でも、企業とメインバンクの取引関係は親密になるケースが多く、情報の共 有などをして、情報の非対称性を緩和している。しかし企業と銀行のこの関係は 必ずしも長期的な関係ではなく、関係が薄れたり解消されたりすることがある。 こうした場合、企業はメインバンクの次に企業と親密な関係にあるセカンドバ ンクを筆頭銀行にするなど、新たな銀行をメインバンクとして取引することに なる。特に未上場企業は直接金融を利用できず、資金調達の大部分を借入に依存 している。そのため未上場企業と銀行の関係性は両者にとって重要である。 本研究ではリーマンショック後に主要銀行を変更した未上場企業の特徴につ いてのパネル・プロビット分析を行う。その後で地域金融機関と未上場企業の関 係性から、地域金融機関の再編についても考察する。これまでの研究で考慮され てなかったリーマンショックの影響を分析した点、企業と銀行の取引環境をよ り詳細に分析するために金融機関の業態ダミーと都道府県内金融機関数という 要因を導入した点と、地域金融機関の再編が金融危機の際にも継続していたか どうかを考察した点で、本稿はこれまでにない研究となっている。 リーマンショック後の影響について注目したのは、近年の最も大きな金融危 機の一つであり、日本の企業と銀行の両者に打撃を与えたからである。特に生産 拠点を海外移転出来なかった未上場企業に大きな影響を与えた。リーマンショ ック後の不況により、多くの未上場企業は資金調達の必要性に迫られ、能動的に より良い融資の提案をしてくる銀行に主要銀行を変更したと考えられる。 2007 年から 2010 年の未上場企業 678 社のデータを用いて、プロビットモデ ル分析を行ったところ操業年度が短く、地銀を主要銀行として取引している企 業ほど主要銀行を変更する可能性が高いことが分かった。その中で主要銀行を 変更する企業の多くが、規模の小さい銀行から規模の大きい銀行へと取引先を 変更させていたことも見られた。このことから多くの未上場企業にとって、地方 銀行や第二地方銀行の役割が低下し、都市銀行の存在感が今後ますます増加し ていくことが示唆された。

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