19期生 菊地 弘晃
ストックオプションの導入要因と研究開発投資への影響
近年、日本企業において、エージェンシー問題の軽減、経営者のリスクテイキン グ行動の増進、インセンティブ向上などを目的としたストックオプションの付 与が一般的となっているが、海外と比較するとその付与量は圧倒的に少なく、ス トックオプションが報酬体系として完全に定着しているとは言い難い現状があ る。日本のストックオプションの導入要因や効果に関する先行研究はいくつか 存在するものの、主流となりつつある株式報酬型ストックオプションに着目し た研究や、リスクテイキング行動としての研究開発投資に着目した研究は少な い。本論文では、研究開発集約度の平均値の高い 3 業種(医薬品・電気機器・精 密機器)において、通常型ストックオプションと株式報酬型ストックオプション の制度上の違いに着目し、それぞれのストックオプションの導入要因と研究開 発投資への効果を分析、比較した。分析の結果、レバレッジの高い企業が通常型 ストックオプションの付与を避ける傾向、上位 10 株主持株比率が低く、海外法 人等持株比率が高い企業ほど株式報酬型ストックオプションを導入する傾向が 強いことが明らかになった。また、通常型ストックオプション、株式報酬型スト ックオプションの導入が、共に企業の研究開発投資に対して負の影響を与える という結果が得られた。現状のストックオプションの制度設計では、経営者にリ スクテイクのインセンティブを効果的に与えられていないと考えられる。経営 者個人にリスクを負担させず、より長期的なインセンティブの付与を行うよう な制度設計によって、研究開発投資などのリスクテイキング行動を促進するこ とができるかもしれない。