19期生 小林 寛和
原発事故が福島県産米の価格形成に与えた影響
福島県及び周辺地域を対象とする実証分析
東日本大震災による福島第一原発事故から 6 年が経過したが、福島県の農業復興には遅 れが目立つ。検査体制や汚染防止対策の徹底で農産物の安全性が担保されているにもかか わらず、多くの品目が今も根強い風評被害にさらされ、価格、生産量ともに低迷が続いてい る。また、原子力損害賠償紛争審査会および東京電力ホールディングス株式会社が定める風 評被害による過失利益の算出額は震災前後の単純な価格変動を元に算出されており、十分 な補償が行われているとは言い難い。本研究は、福島県産及び周辺地域産の農産物価格が震 災後にどの程度下落しているのかをより定量的に明らかにすることにより、現状の賠償制 度が完全でないことを議論したいと考えている。 本稿は、2006 年から 2015 年にかけて 40 都道府県 4 地域で生産された米の相対取引価格を 対象に、 Difference in differences 分析を用いて原発事故の農産物価格への影響を推定した。 推定の結果、原発事故によって福島県産米の価格は 6%下落していることが分かったが、比 較的同様の状況下にある周辺地域産米については有意な結果が得られなかった。 本研究により、風評被害に対する賠償制度において「原発事故が起きなかった」という反事 実を考慮した上で算出が行われれば、賠償額はより高額になるのではないかということが 示唆された。